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着々どころではない廃炉(山田 孝男 毎日新聞社特別編集委員)2022年4月

 核兵器も、原発も、福島の廃炉も制御不能である。ロシアがウクライナ南部のザポロジエ原発を砲撃した直後の3月8日、日本記者クラブの取材団に加わって東電福島第一原発を訪ねた感想はこれに尽きる。

 廃炉作業中の原発は表向きは落ち着いていた。線量は減り、メルトダウンした原子炉建屋も短時間なら近くで観察できる。ゴールへ向け、着々前進――と見えなくもない。

 だが、内実は違う。着々どころではない。廃炉の最大の障害になる1~3号機の核燃料デブリが取り出せない。推計880㌧。接近不能、調査不能で実態不明。東電は「30~40年で回収」と言うが、そう聞いて納得する国民が何人いるか。

 むかし戦争、いま原発制御。民心を鼓舞した国策が行き詰まり、情報が見失われ、進退窮まった時、政府と国策会社は〈大本営発表〉を垂れ流す。戦時も平時も同じ。

 原発事故11年目の春は、皮肉にも原発回帰が語られる春になった。気候変動に加え、戦争によるエネルギー遮断の現実味が増した。

 だが、原発は制御不能である。使用済み燃料、放射能汚染水、核種をろ過した処理水、その過程で出る高濃度の汚泥、作業員が頻繁に使い捨てる被曝衣料――。汚染を制御する努力が新たな汚染を生む。

 原発は侵略軍の標的になる。ロシアが証明した。原発は安全保障の選択肢どころの話ではない。

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