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FNN系被災3県合同特番/忘却に抗い「羅針盤」模索(仙台放送報道部長 菊地 章博)2022年3月

 東日本大震災の発生から間もなく11年。発災直後から、被災地をカバーするテレビ局は地元の惨状を伝え続けた。当初は、全国に被災地の窮状を伝え、地元に生活再建情報を伝えることで精いっぱいだったが、地元の視聴者も情報を欲し、放送は伝わっている実感があった。

 2016年、震災から5年の3月11日。仙台放送は例年同様、全国への生中継とローカルで復興を検証する特番を手掛けた。特番の視聴率は3%台。県民の関心が薄らいできていると感じた。

 

関心の維持へ積極協力

 

 どうしたら関心を維持してもらえるか。震災は岩手、宮城、福島を中心に、地震、津波、原発事故の複合的な被害をもたらした。原発事故では、福島第一原発からの距離は違っても、各地に様々な影響を与えている。そうした被害と課題を各県単独の視点ではなく、多面的に取り上げてはどうかと考えた。岩手めんこいテレビ、福島テレビに相談すると2社とも「ぜひやろう」と積極的。やはり「関心の維持」が課題になっていたと想像する。打破したい思いは同じだった。

 ベースにFNN系列の結束もあった。他の民放も同様と思うが、FNNは定期的な全国会議などで部長やデスクが集い、番組情報を共有して議論する。普段から顔なじみの仲間で、意思疎通は円滑だった。

2017年3月11日(土)、最初の3県特番「明日への羅針盤 ~震災から6年 ふるさとの未来~」を生放送。「津波の教訓」や「街づくり」など4つのテーマで3県の今を取り上げた。「原発事故の影響」では、福島テレビが避難指示解除の飯舘村から除染廃棄物が積まれた様子を中継。岩手めんこいテレビは風評被害に苦しむ漁業者を取材。仙台放送は汚染稲わらなど指定廃棄物の処分施設をめぐる住民の思いを伝えた。地域で異なる原発事故の影響を様々な面から取り上げた。

 結果、宮城県での視聴率は5%台で、前年より視聴者の関心を回復させることができた。

以来、「明日への羅針盤」は、3県の被災者・県民に共通する課題を多角的に捉えることを目標に、毎年、生で放送してきた。

 

他社の取材に刺激受け

 

 楽な作業ではない。3社の報道デスクから担当者を決めて制作するが、皆、日々のニュースに追われている。連絡は取りづらく、主幹事になった局の担当者は焦る。普段のニュースとは勝手が違う特番作りを、3社で意見交換しながら進めるのは容易ではない。それでもやりがいを感じるのは、普段は中々見られない他社の取材に刺激を受けるからだ。押し寄せる津波を自分で撮影しながらリポートした者。取材中に原発爆発の空気の振動を背に感じた者。大勢の遺族の無念に耳を傾け続けた者。様々な経験をした者たちが意見を交わし、切磋琢磨する機会になっている。

 そして、被災地と呼ばれるようになった古里に住み、被災者と向き合い続けているから、「悲しみを二度と繰り返させない」と強く願っている。その念に、背を押されるのだ。

 被災地取材で「レジリエンス」という言葉をよく聞く。復元力、弾力を指す。被災地の復興には逆境をはねのける回復力、柔軟に適応する力が必要だと言う。我々の震災報道も〝レジリエンス〟を高めたい。今年の3社特番は、はるな愛さんと一緒に、被災地を貫く〝復興の道〟(三陸沿岸道路・常磐自動車道)を走り、各地の今を伝えるVTR番組を制作する。

 「次の命を守るため、忘却にあらがい続ける」

根っこの思いは変わらず、手法は弾力性をもって柔軟に。明日への羅針盤を模索していく。

 

きくち・あきひろ1991年4月入社 報道 制作 営業 東京営業 制作を経て 2013年3月制作部長 16年3月から現職

 

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