ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


3・11から9年:10年に向けて(2020年3月) の記事一覧に戻る

被災者支援制度に問題も/東北3県、台風で多重被災(河北新報社 東野滋)2020年3月

 「恐ろしい雨だった」。地盤工学の研究者が発した言葉が忘れられない。昨年10月の台風19号の豪雨による水害や土砂災害で10人が死亡、1人が行方不明となった宮城県丸森町。全国の自治体で最悪の人的被害が出た背景について尋ねたときのことだった。

 

 土石流が住宅ごと男女4人を襲った同町子安地区は、土砂災害危険箇所に指定されていなかった。付近でかつて山火事があり、植林後の根の張りが不十分で地盤が弱かったとの見方も現地にあった。

 

 しかし研究者は、その二つの要因と被害との因果関係を明確に否定した。同町筆甫の12時間降水量は、年平均降水量の約4割に相当する517・5㍉。この桁外れの豪雨の前ではともに「無意味」と断じたのだ。

 

 東日本大震災の発生から9年。この間、被災地で「災害」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは地震と津波だった。2015年の関東・東北豪雨や16年の台風10号豪雨も経験したが、防災・減災報道に力を入れる河北新報も同様だったかもしれない。巨大な台風19号がその死角を突いた。

 

■床上1㍍未満浸水には支援なし

 

 浮き彫りになったのが「多重被災」の理不尽さだ。岩手県宮古市は震災と台風10号豪雨に続く浸水に見舞われ、一部損壊を含めた被災住宅は約2000棟に上った。福島県では東京電力福島第一原発事故で避難する300世帯以上が家屋浸水などに遭い、一部は仮設住宅に転居した。災害が相次ぐ中、多重被災のリスクは今後どの地域も無縁ではない。

 

 被災者支援制度の問題点も再び露呈した。岩手、宮城、福島3県で床上浸水した住宅は4500棟を超えるが、被災者生活再建支援法では床上1㍍未満の浸水には支援金が原則支給されない。対象外となった被災者からは「畳や家具がだめになったのに」と悲鳴が上がった。

 

 岩手、福島の両県が独自支援に乗りだす一方、宮城県の村井嘉浩知事は否定的で対応は分かれた。だが近年の災害続発に加え、台風19号の被害が広域に及んだことで支援法の抜本的改正を求める声は、かつてないほど高まっている。

 

■いまだ5万人が避難生活

 

 避難所の劣悪な環境も相変わらずで、被災者が硬い床に雑魚寝する光景に考え込まざるを得なかった。関連死を含めて2万人以上が犠牲になった震災とは何だったのか、と。

 

 東京五輪・パラリンピックが開催される年を迎えても、なお5万人近くが仮設住宅などで避難生活を送る。廃炉作業は30~40年後の完了を目指すが使用済み核燃料の搬出は遅れ、デブリの取り出しも順調に進むかどうかは見通せない。処理水は既に120万㌧近くに達している。

 

 それでも「復興五輪」の掛け声の下、復興は終わったかのような雰囲気が漂う。脱原発の声は根強いが、全国の原発に続いて宮城県でも東北電力女川原発2号機の再稼働に向けた動きが進んでいる。

 

 日本社会は震災から何を学び、何が変わったのか。変わらなかったのならば、それはなぜか―。発生10年の節目の報道にはこうした視点も重要になると考えている。巨額の予算が投じられた復興事業の成果と課題を検証するのはもちろん、災後の社会の姿、人口減が進む被災地の未来までを見通す必要があるはずだ。

 

 まずは震災9年となる今年3月11日に向けて岩手、宮城、福島3県の被災地の実情を伝えたい。その後の10年目報道は五輪の祝祭ムードの中で展開していく。地元紙として風化にあらがいつつ、いかに巨大複合災害の全容に迫り国内外に発信できるか。腰を据えて取り組むしかない。

 

ひがしの・しげる▼2005年入社 報道部や秋田総局 釜石支局を経て 19年4月から報道部震災・遊軍班

ページのTOPへ