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いまなお将来が見通せない「廃炉」(団長・(企画委員)朝日新聞社科学医療部 上田俊英)2020年3月

 東京電力福島第一原発の事故から9年。日本記者クラブの福島第一原発取材団は今回、原発構内のほか、JR常磐線の全線開通に向けて新駅舎建設が進む双葉駅、東京五輪の聖火リレーのスタート地点となる「Jヴィレッジ」などを訪れた。33人が参加した。

 

 原発の前に立った。炉心溶融した1~3号機の建屋内には依然、使用済み核燃料が残っている。昨春に3号機で取り出しが始まったものの、1、2号機は手つかずで、全部の使用済み核燃料の取り出しが終わるのは「2031年内」(東電)。10年以上も先のことだ。

 

 廃炉に向けた工程は、昨年末に改定された。東電・福島第一廃炉推進カンパニーの阿部賢治氏は「工程は3~5年、後ろ倒しになった」と説明した。溶け落ちた燃料の取り出しは21年内開始とされているが、その先は依然、まったく見通せない。

 

 構内では、トリチウムを含む処理済み汚染水の貯蔵タンクの増設が続いていた。タンクにたまっている水は現在、約118万トン。東電は今年中にタンクを約137万トン分にまで増やすが、それでも22年夏ごろに満杯になるという。

 

 取材団が訪れたのはそのタンクの水の処分方法について、経済産業省の小委員会が「海洋放出」を有力とする提言をまとめた直後だった。

 

 構内で取材に応じた資源エネルギー庁の木野正登参事官は「海洋放出は既存の原発で行われていて、経験がある。モニタリングもしやすい」などと利点を説明した。

 

 しかし、海洋放出した場合、地元でとれた魚が売れなくなるといった被害が、どれほど出るのか。誰も分からない。

 

 今回、取材団は双葉町の取材に多くの時間を割いた。町の96%が「帰還困難区域」で、いまなお全町避難が続くこの町でも、常磐線の全線開通に先立つ3月4日、双葉駅周辺の避難指示が解除された。帰還困難区域では初の解除だ。

 

 伊澤史朗町長はトリチウムを含む水の処分問題について、「被害者が、被害者になってはならない」と言った。当然だろう。この町では「復興」が、やっとスタートラインに着くところなのだ。

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