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世界最大の民主主義国(団長 毎日新聞 菊池哲郎)2005年3月

中国にしようか、インドにしようか少々迷ったのだが、インドにして実によかった。

 

ほぼ2週間デリー、バンガロール、カルカッタ、ベナレス、アグラと回ってシン首相との会見はならなかったが、シン外相や日経の太田さんががんばってくれて西ベンガルの首相にも会った。彼らがなかなかの人物であった。

 

かねてから10数億人の地中からわいて出てくるようなインド人を治めるのはよほど大変なことだと思っていた。そういうところではそれができる人物が出来上がるのだとつくづく実感した。

 

彼らの枕詞は「世界最大の民主主義国」だ。10億以上の民に勝手に選挙をさせて統治している国はインド以外歴史上も他にない。一方で田舎では電気もない2000年前の生活をしているところもあり、本当にインドに何人住んでいるかはわからない。

 

つまり1票の格差どころではない。人は平等でないことを平然と見つめながら、選挙人名簿はあって文句もなく民主主義をやっている。そこに秘められた歴史と直結している現実が迫力あるすごいところだ。

 

■完結したひとつの世界

 

アメリカも中国もロシアも大国であって、ちまちまとした日、仏、英、独などの国民国家とは全然異なる大地と人の集まりだと思う。

 

インドはその彼らとも異なり大国というよりは勝手に築いたひとつの世界で、基本的にあそこで完結している。中国のように他と接触する以外に成長の道がないのとは根本的に異なり、外部との接触の必然性は工業団地とか企業とか点にしかない。

 

インド人のイメージ、ターバンを巻いたシーク教徒はインドでは物の数にも入らぬ極少数派でしかない。外界で見えるインドはほんのちょっとインドからしみ出したエキスでしかないのだ。

 

■インド文明と世界の接点

 

ユスフ・カーンという現地でわれわれを案内してくれたインド人がいる。煎じ詰めたところヒンズー教がインドの中心にドンと座り込んで、モヘンジョダロ以降ずっとインドをかたどっている歴史観をよく教授してくれて感謝している。それがあるから中国とは似て全く非なるものなのだ。

 

途上国の成長というより、インドという文明そのものが、ようやく世界と関係を持とうとしているととらえたい。BRICsと経済成長力だけでくくったとらえ方は、想像力が小さすぎるような気がする。

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