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ベンガル人の意地とプライド(副団長 日本経済新聞 太田泰彦)2005年3月

西ベンガルは懐かしい気持ちがわいてくる土地柄だった。

 

三菱化学の合弁工場への行き帰りのバス中、激しく揺られながら携帯電話をかけまくり、州政府幹部と取材の約束を取り付けた。デリー在住の「知り合い」の「知り合い」の、そのまた「知り合い」が州政府のナンダ漁業相だった。

 

指示された番号をたどると、最後に漁業相自身が電話口に出てきた。事情を話すと親身になって考えてくれて、バタチャルジ首相らとの会見を手配してくれた。

 

なんとなく田舎くさい展開だなと思いつつ、翌日、閣僚らに会ってみると、なるほど飾り気がなく真面目そうな人たちだった。英国の植民地時代を思わせる州政府の庁舎のたたずまいも心に染みた。高い天井に一列に並ぶ扇風機が気だるく回り、島かごのようなエレベーターがゆっくりと動いていた。

 

共産党の長期政権と聞いて尻込みする日本企業は多いだろう。だが、日本への眼差しは熱い。タゴールとパール判事の名前を何度も聞いた。地元報道陣は菊池団長に鈴なりになった。

 

首相は「まず農業だ」と語る。ITだ、グローバル化だと、どこか浮ついた雰囲気だった南のバンガロールと好対照をなす経済開発のモデルだ。ベンガル人の意地とプライドがにじみ出た。

 

教育水準が高く、自然にも恵まれている。ASEAN諸国との連携にも地の利がある。三菱化学は自分自身の目でインドをつぶさに眺め、考え抜いた上でベンガル進出を決めたのだろう。日本企業では少数派だが、その成功ぶりが眼力の正しさを示している。

 

「2年でバンガロールを抜く」という首相の言葉は現実となるのか。是非もう一度、訪ねていきたい。

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