ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


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消えぬ貧困の影…(北海道新聞 金成良宏)2005年3月

「カーンさんの巧みなガイドをお手本に」―。インド経済の取材旅行から戻って1週間後、函館市に近い北海道森町の観光案内のボランティアサークルから、こうした内容の会報が送られてきた。

 

帰国直後に夕刊のコラムで、今回の旅行でお世話になった観光ガイド、ユスフ・カーンさん(43)の仕事ぶりを紹介したところ、「活動の参考になる」と、この記事を会報で紹介してくれた。

 

今回の旅行を実りあるものにしてくれたカーンさんにあらためて感謝したい。

 

とはいえ、帰国して1カ月たっても、インドのイメージは頭の中で混沌としており、整理がつかないままだ。

 

情報技術(IT)を中心に目覚ましい成長を続けるインド経済とそれを担う若手技術者や大企業の工場労働者たち。社会の中間層は着実に厚みを増している。

 

一方で、経済発展の果実とは無縁な貧困層も減らない。

 

両者の所得格差は多分、これからも広がるばかりだろう。

 

バンガロールの洗練されたハイテクオフィスでソフトドリンクを手に語らう若者たちの陰に、ニューデリーの街角で小銭をせびる母子や裸足の子どもたちがいる。

 

インドの経済規模は半世紀後には日本を上回る―という予想がある。しかし、この時代が来ても、1日1ドル以下の暮らしを続ける国民の3割が経済的に浮上する可能性は極めて低いようだ。

 

インドの現状はわが国の高度成長期の初めと似ている―との見方もあるが、国民の多くがその恩恵に浴した日本とは違う。「階層社会」の足かせは重い。インドも貧困層の解消なしに経済大国と胸を張ることはできないだろう。

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