ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


第3回アジア経済視察団(2002年11月) の記事一覧に戻る

バイクとアオザイ(副団長 共同通信 山本武信)2002年11月

ホーチミン空港に降り立った途端、バイクの洪水が暴力的なまでに迫ってきた。その迫力、そのエネルギー。一体、どこからどこへ向かおうとしているのか。老若男女、みんな自分勝手に走っている。逆走するものさえいる。それでいて渋滞しない。日本は秩序の中に無秩序があり、ベトナムは無秩序の中に秩序がある……。

 

平和と建設の新段階に入ったベトナムの最大の懸案は「ホンダ」の爆発的な拡大だ。二輪車部品の輸入制限をめぐる日越摩擦も、この現実を見ずして理解できない。

 

道路を渡れずに呆然としていると、「危ないよ」「1ドル、1ドル」と人力車のシクロがしつこくつきまとう。前からは物売り、横からは物乞いの少女。辟易した通りの向こうへふっと視線を移すと、鮮やかな黄色のシルエットが目に入った。アオザイ姿の若い女性だ。匂い立つように美しい。見わたせば、モデルのような女性たちが汗まみれの男たちの間で美を競っている。

 

100年におよぶ戦争と貧困を、男以上に耐えてきたのは女性だった。米国と不条理な戦争に勝った後も、女性の生活は男の何倍も厳しかった。そんな女性哀史に新しい風が吹きが始めたことをか感じさせるのがアオザイの流行である。

 

バイクの膨張もアオザイの復活もドイモイ政策の副産物で、改革の時代を体現してどんな政治家の言葉よりも雄弁だ。バイクとアオザイ、そこにベトナムの未来が映っているように思えた。

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