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第2回アジア経済視察団(2002年2月) の記事一覧に戻る

サンパギータの香り(副団長 共同通信社 西倉一喜)2002年2月

フィリピンへの旅は個人的には十何年ぶりかのセンチメンタルジャーニーだった。この間、何が変わり、変わらなかったのか―。5日間駆け足で回った印象で言えば、あまり代わり映えしていなかった。それだけに街角で花売り少女の差し出す白いサンパギータの甘く清冽な香りに切ない思いがこみ上げた。

 

ぼろをまとっても底抜けに明るい国民性。ガードマンに守られた豪邸に住むエリート層とスラム住まいの貧困層の気が遠くなるような格差はほとんど縮んでいないようだった。空港からホテルに向かう沿道で外国人旅行者たちがむき出しの現実に打ちのめされる一方で市井の人々のあふれるような微笑みに救いを見いだすのも昔と同じだった。

 

そうした首都マニラにアジアの貧困撲滅を長期戦略に掲げるアジア開発銀行の本部があるのも皮肉だった。同じく貧困対策を内政の最大課題とするアロヨ大統領が「日本でも構造改革は難しいでしょう」と断言したのにはあきれた。ピープル・パワーはどうしたわけか貧困問題にはあまり効果がないようなのだ。

 

この国の政権交代は、高邁な民主主義を説くが伝統的な社会構造には手をつけないエリート政治家と、大衆迎合の下層出身の腐敗政治家の間で行われてきたという意地悪な見方がある。この説によればアロヨ大統領は前者ということになる。

 

アジア最大の米海軍基地から加工貿易地区に生まれ変わったスービック湾を視察した。米軍基地撤去でフィリピンはかつての宗主国・米国から乳離れしたはずだった。折から南部ミンダナオ島でイスラム教過激派ゲリラ、アブサヤフに対して米比合同軍事演習が展開中で、米国の軍事的影響力が再び強まりつつあるのを感じた。

 

「貧困」と「米国」というフィリピン近現代史解読のキーワードが依然として幅を利かせていた。

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