取材ノート
ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。
中台間のベクトル(副団長 読売新聞 荒井利明)2002年2月
台湾での滞在2日目、日曜日を利用して、大陸と目と鼻の先にある金門島を訪れた。大陸が支配する島までの距離は2キロほどしかない。
金門島は1950年代の台湾海峡危機における最前線で、58年には44日間に40数万発もの砲弾が大陸から打ち込まれたという。
それは昔の話。今やその砲弾が包丁に作り替えられて、観光客のおみやげとなっており、私も記念に一本購入した。
金門島と対岸のアモイ(中国福建省)とは、昨年1月から海の直航が実現している。中台間の地域限定の「三通」(三通とは直接の通信、通航、通商)で、「小三通」と呼ばれている。大陸側はあまり熱心ではないようで、金門島の人々の期待に反して、人や物の動きはそれほど活発ではなかった。
中台間の全面的な「三通」は、いつ実現するのだろうか。
滞在最終日に現実した会見で、陳水扁総統は、台湾側は「三通」を拒否していない、と語り、実現しないのは中国側に誠意がないため、と主張した。
中国側の言い分は、台湾側が「一つの中国」の原則を受け入れないため、というものだ。
陳水扁総統は、「一つの中国」は原則や前提ではなく、将来の問題であるとの立場をとっており、中台双方あるいはいずれか一方が譲歩しない限り、「三通」はいつまでも完全実施されないことになる。
ただ、中台間の経済関係はますます緊密化しており、台湾プラスチックの王永慶会長は、自然の流れ、と積極的に受け止めていた。だが、季登輝前総統は、批判的だった。
中台間の経済と政治のベクトルは異なる方向を向いているようだ。今後、どちらのベクトルが主導的な位置を占めるか、それが問題だろう。
微妙な中台関係の一端に触れることのできた台湾の旅だった。