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第1回アジア経済取視察団(2000年12月) の記事一覧に戻る

タテマエとホンネ(副団長 共同通信社 春名幹男)2000年12月

不思議の国、マレーシア、などと言っては、マハティール首相に怒られるかもしれない。だが、正直に言ってそれが私の率直な印象だった。

 

首都クアラルンプールからバスで南へ小一時間、かつてゴム林があったサイバージャヤでは情報技術(IT)産業が演出されようとしている。マルチメディア・スーパーコリドー建設の核となるサイバージャヤだけでなく、近代的なクアラルンプール国際空港(KLIA)や新行政センター都市プトラジャヤなどもグローバル化経済で生き残りを図るための経済基地と言える。

 

これらの野心的なプロジェクトを米大手IT企業のトップも模範的だと称賛しているのだ。

 

米国主導のグローバル化にとことん抵抗するマハティール首相の強力な指導力で、これれらの施設の整備を進めている点が、私には意外だった。タテマエとホンネをうまく使い分けたマレーシア流処世術ともとれる。

 

数々の優遇策でサイバージャヤへの外国企業誘致を進めている点も興味深かった。われわれはその一社、NTTコミュニケーションズ社の現地施設を見学した。

 

3年前の東アジア金融危機では、マレーシアだけが国際通貨基金(IMF)の”処方せん”を拒否したが、マハティール首相は「IMF援助に頼った国よりずっと経済は回復した」とわれわれに胸を張った。

 

これまで「ルックイースト(東方)政策」で日本にものづくりを学んできたマレーシアが、今度はIT革命で、労働集約型から知識集約型経済に移行し、「2020年までに先進国の仲間入りを」というのだ。

 

IT主導への移行は可能か。首相は「マレーシアは労働力不足。直接投資が中国に移転するのは歓迎する」とまで言い切った。だが、日本人商工会議所で聞いた話はちょっと違っていた。5年後くらいに再度マレーシアを見てみたい。

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