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帰還困難区域解除の道筋見えず(福島民報社 円谷真路)2019年3月

東京電力福島第一原発が立地する大熊、双葉両町。原発事故による全町避難が続く中、避難指示解除準備、居住制限両区域の解除や、特定復興再生拠点整備に向けた取り組みが進む。一方、一部の区域から復興への歩みをスタートさせる両町には依然、大きな課題が横たわっている。大熊町は中間貯蔵施設用地を除く帰還困難区域が37%、双葉町は75%を占める。帰還困難区域は解除や除染の見通しが示されておらず、バリケードで閉ざされた町土を抱えながらのまちづくりに直面している。

 

■再生拠点整備でも帰還に迷い

 

常磐自動車道を北上し、常磐富岡インターチェンジを過ぎると西側に大規模な造成地が広がる。大熊町が再生に踏み出す拠点に位置付けた居住制限区域の大川原地区だ。新しい役場庁舎のほか、公営住宅、商業施設などが整備される。震災前は比較的、居住者が少なかった地域だ。町によると、帰還を望む町民の受け皿となる公営住宅などへの入居希望者は多いという。帰還困難区域内に自宅がある住民が、避難指示が解除される区域の土地を新たに求め、住宅を建築する動きも出ている。避難を強いられてから8年を経ようとしてもなお、古里への深い愛着がにじむ。

 

一方、町が実施した住民の意向調査では、帰還するかどうか判断できずにいる人が少なからずいる。理由はそれぞれ住民の置かれている立場によって異なり、千差万別だ。廃炉作業中の福島第一原発、中間貯蔵施設が近くにあることや放射線への不安を挙げる人、避難先で芽生えた交流を断ち切ることを戸惑っている人もいる。帰還困難区域の存在も大きなウエイトを占めるように感じる。大熊、双葉両町には解除の見通しが立っている避難指示解除準備、居住制限亮区域に加え、居住ゾーンや耕作再開モデルゾーンを設ける特定復興再生拠点が整備される予定だが、2022年春頃と設定している同拠点の避難指示解除後も町内には広大な帰還困難区域が残る。「町内に帰ることのできない場所があるという現実を考えると、なかなか『戻りたい』と前向きになれない」。町民の一人は心中を明かした。

■国は「早期再生」の具体策を

 

国は、20年度までの復興・創生期間にとどまらず、それ以降も変わることなく、福島の復興を成し遂げるまで前面に立ち、全力を尽くすとしている。安倍晋三首相も国会答弁などで「たとえ長い年月を要するとしても将来的に全ての避難指示を解除し、復興・再生に責任を持って取り組む」と述べている。

 

避難を強いられている住民の思いからすれば、国の姿勢は「当たり前」の対応でしかない。22年度以降も残る帰還困難区域の除染を推し進め、一日も早い避難指示解除を目指すという国の覚悟は読み取れない。「たとえ長い年月」の文言を「除染をせずに自然減衰を待つ」と受け止めている関係者もいる。住民の願いはいち早い避難指示の解除だ。国は帰還困難区域の除染見通しを示すべきだ。帰還困難区域内の除染見通しや放射線量に基づく段階的解除に向けた新たな区域設定を求める声もある。再生への道筋が見えないままでは、つなぎとめていた古里への愛着が薄れる懸念がある。

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