ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


神戸取材団(2014年12月) の記事一覧に戻る

阪神・淡路大震災20年 経験や教訓伝え続けたい(神戸新聞社 桜間裕章)2014年12月

 

「被災住民の8割が元の場所に戻ることを望んだが、実際に戻ることができたのは3割足らずだ」

 

阪神・淡路大震災で約8割が焼失した神戸市長田区御菅西地区でまちづくり支援を続けるNPO法人代表は震災20年の現状をそう説明する。

 

復興土地区画整理事業で広い道路や公園が整備され、町並みはきれいになったが、下町のにぎわいは戻らなかった。住宅の軒数は震災前の約8割だが、店舗数は6割、町工場は3割で、町の姿は変わった。

 

神戸などの被災地では、傷痕は見えにくくなっているが、復興のひずみ、課題は残った。報道してきた立場として複雑な思いもある。

 

神戸新聞は震災で本社が倒壊し、新聞発行が危うくなった経験から「被災者の視点」を掲げて震災報道をスタートさせた。住まいやまちづくり、国と自治体の温度差など、直面する課題を取り上げた。同時に「経験を伝え、教訓を生かす」をテーマに、復興の過程で学んだことを広く発信しようと心掛けた。

 

その1つが公的支援の充実だ。国は「被災者個人に税金は投入できない」との姿勢だったが、生活基盤回復の支援は必要との被災地からの訴えをキャンペーン的に報道した。市民が声を上げ、自治体や国会議員も動き、被災者生活再建支援法が成立したことは大きな成果といえる。

 

ほかにも「ボランティア元年」といわれ市民活動が活発化したこと、災害弱者への対応、心のケアなど、震災後に取り組みが進んだ例は多い。今後も伝えるべき経験や教訓はまだまだあると感じる。

 

最後に神戸でいま、災害ボランティア割引制度の実現を求める声が高まっていることを紹介したい。被災地へ支援に駆けつける人は増えているが、遠隔地の場合、交通費や宿泊費の重さが活動を阻みかねない。

 

東日本大震災から3年4カ月間のボランティア数は、阪神・淡路の同じ期間に比べ50万人以上も少ない。

 

ボランティアは自己完結が基本だが、活動を支える環境整備は要る。「支援者を支援する文化」をつくりたい。「『災害ボランティア割引制度』を実現する会」が署名活動を進めている。後押しをお願いしたい。

ページのTOPへ