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全国最多死者で総力取材(中国新聞社報道部・久保田 剛)2018年8月

 豪雨が西日本を襲った7月6日夜、本社報道部にある消防無線のスピーカーは、まさに鳴りっぱなしだった。繰り返される機械音声の「自然災害救助」。広島市と近郊から119番が殺到していることを伝えていた。「いったい何カ所で…」。被害は想像をはるかに超えていた。

 

 広島県内の死者は全国最多の113人(8月2日現在)、住宅被害は1万4千棟に達した。災害から約1カ月の今も約1千人が避難所で暮らす。4年前の広島土砂災害を超える惨事に、中国新聞は社を挙げて取材に当たっている。

 

■文化部、経済部、東京支社も投入

 

 住宅被害は県内全23市町に及び、12市町で死者が出る広域災害となった。本社管内でも大きく7カ所の現場があり、報道部に加え、文化部や経済部の記者も投入。被害が比較的小さい山口、島根県の支局ほか、東京支社から記者が集まり、行方不明者の捜索や遺族の表情、避難所の様子を丹念に追った。

 

 被害拡大の要因にも迫っている。専門家と記者がヘリコプターから被災地を調査。中国地方特有のもろい「まさ土」の山肌が、緩い斜面でも広範囲に崩壊したことを紹介した。土砂災害警戒区域の公表が遅れ、危険性が周知されていない地域で犠牲者が相次いだ可能性も指摘した。

 

 中国地方の東西を結ぶ高速道の寸断など、交通網やライフラインへの影響はリアルタイムで伝えた。JR山陽線の再開や国道の通行止め解除など、段階的に進む復旧について、読者らに向けたメールやホームページ(HP)に「速報」を発信。途中に新聞休刊日を挟んだこともあり、HPの閲覧件数は大きく伸びている。

 

 断水もピーク時には広島、岡山両県で約23万戸に。被災から4日後には丸1ページを使った「くらし掲示板」の掲載を始め、給水や入浴サービス、災害ごみの搬入先などを紹介している。

 

■「現場取材は複数」で安全配慮

 

 記録的な猛暑は、記者の体力も奪った。3日連続で現場に出た記者は、翌日を通常勤務や休日に充てるローテーションを組んだ。記者の安全にも配慮し、本格的な取材は視界が確保できる夜明けを待った。現場に近づく時は、原則として単独行動も避けた。2006年の豪雨災害で取材中の同僚記者(当時27歳)を亡くしたことを踏まえ、災害取材のたびに、この鉄則は守られている。

 

 「また、多くの人が亡くなった」。77人が犠牲となった広島土砂災害を経験した私たち共通の思いだ。現場を歩くと、つらい既視感がある。住民からは「4年前は人ごとだと思っていた」との声も聞こえる。

 

 見直した注意喚起の方法は適切だったのか。なぜ、住民は逃げ遅れたか。まずは、被害の大きかったエリアを中心に「その時」を詳細にひもとく。二度と悲劇を繰り返さないための報道を、あらゆる視点から続けたい。

 

くぼた・つよし▼1998年入社 報道部 備後本社 柳井支局(山口県)など 2014年8月の広島土砂災害では 約1年間 被災地に設けた「災害取材現地支局」に常駐した

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