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第17回(中国)「一帯一路」の構想と現場(2017年7月) の記事一覧に戻る

国家戦略と地方の思惑にズレ(団長:坂東 賢治)2017年7月

「上に政策あれば、下に対策あり」。今回の訪中団は中国の習近平国家主席が提唱する海と陸のシルクロード経済圏構想「一帯一路」の起点である陝西省と福建省を訪れた。現地取材時に頭に浮かんだのが、中国でよく使われる、この言葉だ。

 

広大な国土に13億人が住む中国では、上(中央政府)が下(地方政府)に政策を実行させるのは容易ではない。地方幹部は「面従腹背」の対策で中央の政策を骨抜きにし、地元の利益に結びつけようとするからだ。

 

「一帯一路」構想からは世界に打って出て中国の覇権を広げようとする狙いがうかがわれるが、そうした中央の世界的戦略と地方の実態には大きなズレがあると感じた。

 

兵馬俑など多くの世界遺産を抱える陝西省西安は観光が重要な産業だ。企業幹部や市関係者は、一帯一路を観光客誘致のための新たな契機と受け止めている。

 

新設された自由貿易試験区から欧州向けの貨物列車「長安号」が運行されているが、重点は外資導入、輸出振興だ。国外進出の積極性はあまり感じられなかった。

 

海路の起点である福建省福州では、自由貿易試験区をワンストップ窓口など行政簡素化のモデルにしていた。ITなど先端技術産業を重点に、産業構造の高度化を目指していた。

 

厦門(アモイ)では大型クルーズ船用の港湾改修工事が進んでいる。水族館やスノーパークなどを備えた総合リゾート基地になる予定だという。

 

習主席にとって陝西省は本籍地、福建省は17年勤務した「第二の故郷」だ。両省とも地縁、血縁を利用して「一帯一路」をフル活用しようというのが本音ではないか。

 

出発直前、予定された新疆ウイグル自治区取材がキャンセルされた。理由ははっきりしないが、秋の共産党大会を前に海外メディアの受け入れに慎重論が出たのかもしれない。

 

西安では連日40度を超す高温に見舞われた。福建省では双子台風の接近で一部日程が中止になり、ホテルの部屋で軍事パレードのテレビ中継を見て過ごした。

 

中国の変化を観察するのも現地取材の重要な意義だが、キャッシュレス社会化が予想以上の速度で進んでいることには驚かされた。善意にあふれた中華全国新聞工作者協会の接遇にも感謝したい。

 

(毎日新聞社論説室専門編集委員)

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