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第16回(フランス・スイス)エネルギー事情、政策転換と核燃料サイクルの現場(2016年10月) の記事一覧に戻る

恵まれた最終処分地の環境(共同副団長:水野 倫之)2016年10月

今回、高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定が進むフランスとスイスの地下研究所を取材した。

 

事前にいずれも粘土層だと聞いていて、子どものころに練って遊んだ湿っぽい粘土が広がる世界を想像していたが、これがまったく違い、乾いて石のように硬いものだったことにまず驚いた。まわりを見渡しても水たまりさえない。

 

フランスの最終処分実施主体のANDRAやスイスの実施主体のNAGRAの説明によると、いずれも1億6000万年前に海底で堆積したもので、例えばスイスの場合、17%は水分とのことだったが、これは当時の海水がそのまま閉じ込められているもので、大昔から水がほとんど移動していない証拠にもなるという。放射性廃棄物の処分で最も問題になるのは放射性物質が地下水で地上まで運ばれてしまうことだが、いずれの担当者もその可能性は極めて低いことを強調していた。また地震もほとんど起きないということで、こうした恵まれた地質環境の存在が、日本よりも最終処分地選定の手続きが進んでいる理由の1つであることはわかった。

 

ただ、やはりそれだけではないようだ。聞けば両国とも過去には国民の大規模な反対に遭うなど、とんとん拍子ではなかったという。その教訓を生かして責任の所在をはっきりさせたり処分地選定の進め方を細かく定めるなどして、国民の理解を得ようとしてきたと語る。強力な中央集権国家だったり直接民主主義だったりと、国の体制の違いもあるかもしれないが、最終処分のめどがなかなか立たない日本にとっても学ぶべき点が多いように感じた。

 

いずれにしても短期間で多くの原子力関連施設を回れたのは取材団ならではのことで、大変勉強になった。この次は中国やロシアなど、簡単にはいかなそうな地域の施設をぜひ取材してみたい。

 

(NHK解説委員)

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