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第16回(フランス・スイス)エネルギー事情、政策転換と核燃料サイクルの現場(2016年10月) の記事一覧に戻る

地域情報委員会の役割(共同副団長:青野 由利)2016年10月

フランスの原子力関連施設には、地域の声をくみ上げる独特の組織の設置が義務づけられている。福島原発事故以降、そんな話を何度か耳にし、一度取材したいと思っていた。今回、念願かなって複数の地域情報委員会のメンバーと会うことができたが、印象は予想とは少し違うものだった。

 

話を聞いたのは、ビュール村の核のごみ最終処分研究所の「CLIS」(地域情報フォローアップ委員会)と、ラ・アーグにある再処理工場およびフラマンビルにあるフランス電力(EDF)の原発施設の「CLI」(地域情報委員会)。メンバー構成は国会議員、地元自治体の議員、労働組合や環境団体の代表、科学や経済の専門家などで、法律や政令で定められている。年数回の公開討論会を開き、一般の人や専門家、メディアなどが参加する。「何かを決定するのではなく、プロジェクトについて情報を得て、住民に情報を提供する」(ビュール)、「民主的な討議の場を提供し、公表するのが役目」(ラ・アーグ)。安全性などに疑問があった場合に独自に調査する権限もあるという。

 

透明性確保の装置であるのは確かだが、合意形成をめざしているわけではない。さらに感じたのは、反対派の委員はいるものの、総じて地元経済や雇用へのプラス面に着目し、地域の中で施設をうまく運営していこうという姿勢。基本的に原発に肯定的なフランスらしいという気がした。

 

もう1つの疑問は財源の出所。ビュール村のCLISでは半分が国の補助金、半分がEDFやアレバ社など廃棄物を出す企業から出ていると聞いた。これについては、「われわれは電力会社や事業者からはお金はもらわない。それでは独立性が失われる」とラ・アーグのCLIの委員長も首をかしげていた。

 

こうした「あれっ?」という話も、現地に行けばこそ。記者クラブ恒例の「弾丸ツアー」を今後の糧にしたい。

 

(毎日新聞社論説室専門編集委員)

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