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第16回(フランス・スイス)エネルギー事情、政策転換と核燃料サイクルの現場(2016年10月) の記事一覧に戻る

フランスに半歩先の日本を見た(共同団長:服部 尚)2016年10月

フランスの高速増殖原型炉「フェニックス」がある南仏マルクールに着いたのは日程中盤。前半は、仏の東にあるビュール村や北のシェルブールを電車やバスで何時間もかけて回り、食事も車内でサンドイッチで済ますことも多かった。普段の倍速で毎日が過ぎていく感覚だ。日本記者クラブエネルギー取材団の第3弾となった今回は、またいつものような強行軍になった。

 

原子力利用の究極の理想の形は、プルトニウムを増やして核燃料として利用するための高速増殖炉を中心とした核燃料サイクルだ。原子力大国のフランスは、開発の先陣を切ってきたが、高速増殖炉「もんじゅ」のフランス版といえる「フェニックス」は廃炉作業の真っ最中だった。新たに打ち出した次の段階の実証炉「ASTRID(アストリッド)」計画は先行きが不透明のままだ。

 

開発担当者は日本の資金支援に期待感を示し、「高速炉開発は国際協調を前提に考えている」と訴えた。フランスでさえ、単独で核燃料サイクル開発を続けていくことが難しい状況であることを浮き彫りにした。

 

高速炉に限らず、フランスの原子力開発が岐路を迎えていることを、あちこちで強く感じた。日本の試算の3倍もの建設費と推定される新規原発建設現場、各国が再処理路線から撤退してしまい、顧客不足に悩む使用済み核燃料再処理工場―。逆に、普通の原発(軽水炉)の寿命を延長する既存体制の維持が当面の重要な課題となっていた。

 

「もんじゅ」の廃炉も視野に高速炉開発の見直しを進める日本だが、高速炉開発や再処理の看板は下ろさないままでいられる方策を探っているように見える。半歩先の日本の姿をフランスに見る思いだった。

 

(朝日新聞大阪本社編集委員)

 

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