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第15回(中国)新常態(ニューノーマル)の経済現状と課題 の記事一覧に戻る

幻惑する中国(副団長:奥谷 龍太)2016年8月

久しぶりに瀋陽に来たと連絡すると、元タクシー運転手の張さんは、買ったばかりの自家用車でホテルまで会いに来てくれた。かつて日本で研修生をした経験があり、日本語が少しできるので、10数年前、北京に駐在していた私は親しみを感じ、瀋陽に取材に来るたびに彼のタクシーを使った。今は教習所の教官をしているというが、当時は、いつか彼の真新しい自家用車に乗せてもらって、瀋陽の街をドライブすることになるとは、想像もできなかった。

 

中国は常に多くの問題を抱え、今は経済成長の減速がいわれているが、長い目で見れば、高度な技術も人脈もない彼のような人たちが、ともかくも中間層として生活の改善を感じている。

 

ドライブしながら、車窓に流れる瀋陽の夜の街を眺める。10年前と比べて市街地は拡大し、以前は農地だった所にも大型のマンションなどが建ち並んで、中国らしいイルミネーションで彩られている。マンション街の大通り沿いには、大型のレストランが軒を並べ、店の前には出入りする客や車があふれている。市中心部の広場では、大勢の市民が、文化大革命当時に建てられた毛沢東像の下で、思い思いにダンスやたこ揚げなどを楽しんでいる。

 

東北三省の中心都市でもあるこの瀋陽の街、そして遼寧省は、かつて立ち遅れた国営の重工業が中心で、インフラ整備は遅れ、大気汚染もひどい上に、市場経済化の過程で大量の失業者を生むなどして、もがき苦しんだ。そして今また、遼寧省の昨年のGDPはマイナスとなり、数字上は構造改革の波に向き合おうと、もがき苦しんでいる。

 

「中国の特色ある社会主義」の古い体質を引きずってきた経済を、高付加価値型の産業が牽引する経済に果たして転換できるのか、その大きな疑問と、実際に目にする瀋陽の街の屈託のないにぎわいぶり、その両方が中国の現実なのだろう。

 

私たち取材団は、瀋陽からG20の会場となる杭州に飛んだ。空港から市街地に向かう高速道路の両側は、まさに中国の経済発展を象徴する高層ビル群や戸建て住宅が建ち並び、バスが走る先には、ちょうど高速鉄道が白い車体を輝かせながら高架の上を横切って走り去っていった。

 

古いものと新しいものが交差し、理解しようとすればするほど、見る人の目を幻惑させる。多くの社会問題や政治のきしみを抱えながら、中国の発展がどのように続いていくのか、これからも目が離せない。

 

(NHK国際部副部長)

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