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第15回(中国)新常態(ニューノーマル)の経済現状と課題(2016年8月) の記事一覧に戻る

転換期の一断面を見る機会に 情報公開は道険し(団長:福本 容子)2016年8月

何度となく日中間に険悪な空気が漂った。7月31日から8月7日まで行われた当クラブの中国経済取材。訪問した先々でのことである。

 

習近平政権が掲げる中国経済の「新常態」(ニューノーマル)について、実際、現場を訪れ点検するのが今回の訪問の目的だ。公共事業、インフラ投資がけん引する高度経済成長から、消費、サービス産業が持続的成長を支える発展モデルへと移行しようとしている中国。そのための諸改革は順調に進展しているのか。

 

重厚長大型産業への依存から脱却することが課題の遼寧省、アリババなどインターネット関連の新産業が脚光を浴びる浙江省など、転換期の「今」が見られそうだと期待して、記者10人は現地へ向かった。

 

道険し。

 

国家統制型ではなく、自由な発想や活動がものをいうボトムアップ型、市場重視型の経済では、タイムリーな情報公開や高い透明性が不可欠だ。ところが、土台がまだまだなのである。

 

日本や他の先進国で、今回のような取材ツアーを組んだとしよう。取材先に着くと、まず基本データが紹介され、概要が説明される。それをもとに質疑応答があり、そこから必要に応じて現場を見学、というパターンが多い。

 

ところが今回は、出発点となる基本情報の段階でつまずいた。

 

なぜか(広大な!)敷地面積の情報だけは頻繁に披露される。しかし、例えば売上高や利益の推移、成長の見通しなどの数字を得ようと質問すると、長い答えが返ってくるものの肝心の情報が提供されない。

 

「その数字がないと話にならない」「短時間の写真撮影だけでいいので工場内へ案内を」。訴えはむなしくも次々と却下され、揚げ句に「郷に入れば郷に従え」と諭される場面さえあった。取材をめぐる「文化が違う」とも言われた。

 

現地の新聞関係者との交流もあった。「浙江日報」の編集幹部と意見交換した時だった。「経済取材で苦労することはないか」。そう質問すると、「30年間の記者生活で困ったと思ったことは一度もない」「上場企業ともなれば企業秘密があることを理解しなければいけない」。

 

それでも、取材先や同行した中国人記者らに、われわれが真剣に疑問をぶつける姿を繰り返し示したことは、有意義だったのではないか。

 

中国からも数多くの記者を日本に招き、日本や他の外国の記者らと一緒に取材に巡ってもらう企画が増えたらいいと思う。

 

(毎日新聞社論説委員)

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