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第13回(ドイツ・イスラエル)戦後和解(2015年7月) の記事一覧に戻る

ドイツ:反省、記憶、継承の姿に見た「強さ」(共同団長:倉重 篤郎)2015年7月

初日のドイツ連邦議会のクラウディア・ロート副議長からは熱のこもった歓迎を受けた。緑の党の共同代表も務めた女史は、最近国交樹立50周年事業でイスラエルを訪問したことに触れ、両国がここまで来たことは奇跡にも思えるが、それには実に長い道のりと多くの努力があったと、いかにドイツの政治がこの問題に一歩一歩真剣に取り組んできたかを語り、その補償総額は720億ユーロ(約9兆7千億円=7月現在レート)になることを明らかにした。日本に対しては「歴史にふたをせず歴史と共に歩むべきだ」と述べ、独仏歴史教科書が参考になると助言、歴史に向き合うことがドイツの民主主義を強じんにしてきたと強調した。

 

ドイツでは、10人以上の人々と話す機会があったが、多くの人が強調した論点は、ほぼ共通だったような気がする。つまり、ユダヤ社会との和解は、600万人の大虐殺という歴史からすればある意味、奇跡的なものだった。だが、ドイツは国民的努力を傾注し、それをやり遂げつつある。そのためには補償や謝罪やそれをめぐる論争など、莫大なコストを払ってきたが、そのことがドイツの民主主義を逆に強くした。のみならず、ドイツの国際社会における地位を強化してくれた。日本に対しては、状況が異なり偉そうなことは言えないが、70年談話はむしろ和解に向けての発信をするチャンスに使うべきだ、というものだ。

 

3月、メルケル首相が来日し安倍晋三首相と首脳会談することがあったが、ドイツ関係者の言いっぷりからすると、多分その際にメルケルさんが安倍さんに同趣旨の助言をしたに違いない、と私は受け止めた。それに安倍さんはどう反応したのだろうか。内政干渉とばかりに反発したか、それとも安倍談話にサプライズを盛り込まんと耳を傾けたか。

 

いずれにせよ、日本はドイツの体験を過小評価すべきではない。特に、加害者であった歴史を忘れないよう、街のあちこちに「躓きの石」やメモリアルを造り、学校では子どもたちに迫害の歴史を伝え、今に至るまでナチ残党を国内法で処罰し、そして、新しく出てきた補償問題に前向きに対応する。反省し、記憶し、継承するのがドイツの強さである。そのことがドイツに国際社会復帰、東西統一、EU内での存在感強化という大きな国益を生んだことは見逃すべきではない。そのしたたかさこそ学ぶべきではないか、と思う。

 

(くらしげ・あつろう 企画委員・毎日新聞論説室専門編集委員)

 

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