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新聞の勇気と連帯の物語(小松 浩)2018年3月

スクリーンからインクの匂いが漂ってきそうな「紙の時代」の新聞の、勇気と連帯の物語。試写終了後に拍手がわいたのも納得の出来栄えだ。

 

スクープしたニューヨーク・タイムズではなく、抜かれて追いつくワシントン・ポストを主役にしたのが良かった。屈辱をバネにする記者たちを縦糸に、女性経営者グラハムと編集主幹ブラッドリーの男女を超えた友情を横糸に、映画は「国益とは何か」「誰がそれを判断するか」を鋭く問う。

 

この「国家vs新聞」の闘いが新聞の勝利に終わった史実は誰もが知るが、マクナマラが20年間にわたるベトナム関与政策失敗の経緯を文書にまとめるよう指示したことは、正当に評価されるべきだと思う。少なくとも彼は、歴史の法廷からは逃げなかった。

 

記録を残した政治家。報道の自由に軍配を上げた司法。危険を顧みず内部告発したエルズバーグ。タイムズ1紙の闘いにせず隊列に加わったポストや各紙。どれが欠けてもペンタゴン・ペーパーズをめぐる物語は完成しなかった。輝いていたのは新聞というよりも米国の民主主義。トランプ政権へのただのあてこすり映画ではない。

 

今なら内部告発者は文書をまずネットに流すかもしれないし、新聞の結束にも疑問符がつく。だが、真実を明るみに出すため勇気を持って粘り強く仕事する新聞の役目はいつの時代も変わらない。この映画に心を揺さぶられない記者は一人もいないだろう。

 

(こまつ・ひろし 毎日新聞社主筆)

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