ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


記者が観た映画「ペンタゴン・ペーパーズ」 の記事一覧に戻る

ジーグラー報道官vs記者連 火花散らした会見よみがえる(藤原 作弥)2018年2月

この映画は今から40年前近く前に、アメリカの首都ワシントンDCで起こった実話である。同地の地元紙「ワシントン・ポスト」を、社主キャサリン・グラハム女史が亡夫の遺志を継ぎ、全国紙に成長させようとしているときだった。映画のタイトルは『The Post』。

 

時事通信ワシントン特派員だった私は取材合戦にこそ参加しなかったが、当時の雰囲気をありありと憶えている。まず、ニューヨーク・タイムズ紙のベトナム戦争ベテラン記者ニール・シーハンがマクナマラ国防長官の命令でつくられたベトナム戦争の政策記録(ペンタゴン・ペーパーズ)をすっぱ抜いた。その最高機密文書の全文をワシントン・ポストが追跡スクープ。NY紙に次いで、記事全文掲載差し止め命令を直ちに課そうとするニクソン政権に対抗し、ポスト紙は連載報道を続けた。かくして報道の自由をめぐるメディアと政権の全面対決となった。

 

結局、最高裁が合衆国憲法修正第一条に基づき、メディア側に軍配を上げたが、これにより、米政府の北爆開始、ジュネーブ条約違反、米議会に対する虚偽証言などベトナム戦争の誤りが明らかになった。同時に6万人の米兵の戦死、100万人以上の死者を出した同戦争への批判が高まり、大学生からヒッピーまで反戦運動はピークに達した。

 

当時、時事通信ワシントン支局では田久保忠衛支局長らがもっぱらこの問題を担当していたが、ホワイトハウス記者クラブに詰めていた私は、毎日2回の定例記者会見で、ジーグラー報道官vs猛者記者連の丁々発止の質疑応答をサスペンス・ドラマのようにフォローしたものだ。映画は当時の興奮を彷彿とさせる。毎夜、街角に「ポスト」紙の翌日付早版を買いに出かけてはペンタゴン事件を貪り読んだことも懐かしい。

 

ポスト紙のグラハム社主もブラッドリー編集主幹も会ったこと(実は見たこと)があるが、メリル・ストリープもトム・ハンクスも熱演。スピルバーグ監督も、この映画製作の動機を“トランプ政権への一矢”と明らかにしている。この事件の後、ニクソン政権は、すぐに「ウォーターゲート事件」へと突入していく。

 

(ふじわら・さくや 元時事通信解説委員長)

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