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見えない不安 「原発・災害連鎖」をメーンに(福島民友新聞社 菊池克彦)2011年9月

東日本大震災で地震、津波、東京電力福島第一原発事故の複合災害に見舞われた福島県は、災害の連鎖が続いている。原発から放出された放射性物質の影響の広がりは収まらない。避難を強いられた住民の帰還のめどはたたず、避難区域以外でも、多くの住民が被曝への「見えない不安」にさらされている。

 

原発事故では、放射性物質が管理区域の外に拡散する事態の想定がなく、政府や東電の対応は「遅さ」と「まずさ」を強く印象づけた。こうした状況で始めたのが、連載企画「福島原発・災害連鎖 3.11から」だ。原発事故を含めた複合災害の実相に迫り、政府や東電、行政の対応の検証を積み重ねると同時に、放射能汚染の影響を読者にどのように理解してもらうかに主眼を置いた。長く続く原発災害報道のメーン企画と位置づけ、これまでに5回のシリーズを連載した。

 

第1シリーズ「失われた暮らし」では、原発とは無縁の生活を送ってきた村が放射能に汚染され、全村避難を選択させられた村民の苦悩を掘り下げた。第2シリーズ「押し寄せる危機」では、原発を襲った津波への政府や東電の危機管理の不備を追及。放射線から子どもを守る危機管理について、小型線量計配布や通学路の除染の必要性を提言した。

 

第3シリーズ「溶け落ちた安全」では原発事故の原因検証に取り組んだ。データを拾い集めながら専門家の分析を交え、原発の「安全神話」が崩壊していった経緯を報告した。

 

第4シリーズ「安心の行方」、第5シリーズ「守り育てるために」では、自主避難を選択した母子や、線量測定や除染で放射性物質と向き合おうとしている住民の姿、教育現場をリポート、安心を取り戻すための手だてや課題を探った。放射性物質の影響について、専門家で分かれる見解の分析なども織り込んだ。

 

震災から6カ月が経過するが、生活空間の除染や、汚染されたがれき、土壌の処理が進まず、復興への足取りは遅い、取材テーマは今後も拡散し続ける。

 

(きくち・かつひこ 1991年入社/2009年から報道部長)

 

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