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「声なき声」に耳を澄ませて(福島民友新聞社 須田絢一)2014年3月

13万人以上が避難生活を送り、福島第一原発周辺の町並みは手つかずのまま。原発事故から3年近くたったいまも多くの課題はそのまま積み残されている。加えて、時間の経過と共に新たな問題も生じていると感じる。

 

「山も森林も全て除染しないと、帰って農業をしても、作ったものを買ってくれる人はいない」。避難中のある県民は、取材に語った。住宅や畑だけ放射性物質を取り除いても、周囲の森林が手つかずでは消費者の不安は拭えないとの考えだ。県土の大部分を占める森林の除染をどうするか、まだ政府の方針ははっきりしていない。「山をすべて除染するなんて不可能。帰っても生活なんてできるはずがない」。そう吐き捨てた。

 

古里への帰還政策や除染などをめぐり、行政の方針に疑問を持つ被災者は少なくない。政府が昨年、従来の「全員帰還」の原則を断念し、帰らない選択肢も認めた背景には、個々の被災者が思い描く「復興」の個別化が進んでいるという事情がある。帰る・帰らないだけではない。「除染に巨額の国費を投じるのはナンセンス」「中間貯蔵施設ではなく最終処分場を造るのだと言うべきだ」。さまざまな思いがある。

 

前述の県民はこう付け加えた。「名前を出して意見を新聞で紹介するのはやめて」。最近、こうした要望が増えた。狭いコミュニティーの中ではそもそも行政に反対しにくいという事情に加え、行政がいま、復興の加速化を強調する中で本音が言いにくい雰囲気が強まっていると感じる。この雰囲気に流されるまま、被災者の意見が反映されないまま施策が進められても真の復興はない。多様な意見を紹介するべきとの考えから、取材ではできるだけ本音を聞き出し、紹介できるよう心がけている。

 

復興が声高に叫ばれる中でかき消されがちな「声なき声」。それをすくい上げる報道がいま、求められていると感じる。

 

(すだ・じゅんいち 報道部) 

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