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第9回(ハワイ)米軍基地(2012年1月) の記事一覧に戻る

ハワイで見たこと・聞いたこと(沢田 隆三)2012年1月

関西ローカルに深く身を沈めて26年。米軍は遠い存在でしかなかった。

 

それでも上司は「国際的視野を広げるいい機会」と言って畑違いの素人をハワイに送り出した。ローカルニュースで「米軍」を扱える枠はない。わたしは何をしに行くのか。

 

この分野のスペシャリストといえる記者の集団に加われたことは、願ってもないことだった。ふだん接する機会がない、いわば別世界のジャーナリストたちばかりだ。

 

司令官に次々と専門用語で質問する団長の朝日新聞・加藤さんをはじめとするワシントン特派員経験者の方々。その語学の力と博識ぶりにただ敬服するばかりだった。専門記者の凄さを目の当たりにして、会見の内容よりも、わたしの関心はそちらに向いていた。特定の分野に精通することの重要性を、いまさらながら強く思い知らされた。

 

独自のスタイルをもつ、個性的な記者の方々との出会いは刺激的だった。

 

一日目の夜、交流会の席で隣り合わせになったのは東京新聞の五味さん。元ソウル特派員。金正男に三回もインタビューしメールで頻繁にやり取りしていると伺って仰天した。「近々、本を出すんですよ」と飄々とおっしゃる。その後の反響はご存知の通り。

 

地図を頼りにたどり着いたワインバーでじっくり話す機会を得たのは、東奥日報の斉藤さん。三沢基地を取材して20年余、『在日米軍最前線』という本も書いておられる。その知識の豊かさに舌を巻いたが、それよりも斉藤さんが発した「グローカル」ということばに、体が反応した。米軍を「県民の視点」で見る。つまり、ローカルの視点でグローバルなテーマにアプローチするのが「グローカル」ジャーナリズムだという。「ハワイの太平洋軍そのものを書くのではなく、それを切り口にして東北、青森への影響を書くのが私の仕事」と聞かされたとき、ローカルに身をおく者として目からうろこがどっさり落ちた。

 

帰国後、社の上層部に取材の成果を報告しなければならなかった。わたしは、上に書いた“体験談”を話し「専門記者養成の必要性と、グローカルという視点の可能性」を強調した。ある局長は「米軍の取材に行ったんちゃうの?」と怪訝そうな顔をしたが、社長が「キミの話は、ローカル放送局にとって一考を要するテーマではある」と言ったので、事なきを得た。多くを学ばせていただいた、取材団の皆様に深く感謝いたします。

 

(毎日放送ニュースセンター長)

 

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