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アリゾナ記念館(副団長:秋田 浩之)2012年1月

日本も開戦時の緻密な検証を
この旅で印象に残った体験のひとつが、真珠湾のアリゾナ記念館を訪れたことだった。日米開戦の現場を見ることができたからだけではなく、日本のあり方を再考するヒントを与えられたからだ。

 

アリゾナ記念館は旧日本軍の攻撃を受け、戦死した乗員とともに水没したままになっている戦艦アリゾナの海上に建てられている。水面をのぞきこむと、船体から漏れたとみられる油の膜がかすかに広がっていた。

 

ボートでここに行く前に、訪問者は攻撃にまつわる展示と短い映画を観る手順になっている。さぞかし、日本の「非道ぶり」を宣伝する内容かと思いきや、展示から受けた印象はやや違った。

 

全体としては米側を「善」として描いているが、思ったより日本側の事情にも光を当てようとしているのだ。たとえば、真珠湾攻撃を主導した連合艦隊司令長官の山本五十六を、必ずしも好戦的な軍人として紹介しているわけではない。彼について、こんな趣旨の記述がある。

 

「彼には米国に留学した経験があった。米国との戦争にも反対していた。それでも戦うなら、こうした(奇襲の)作戦しかないと考えた」

 

このほか、米国の経済制裁によって日本が追い込まれていった開戦前の経緯や、旧日本軍の兵士らの証言も動画で観れるようになっている。

 

関係者によると、当初は米国の視点がほとんどだったが、少しずつ、日本側の事情にも光を当てるようになってきたのだという。

 

なぜか。それは米国が愛国心を鼓舞するだけでなく、戦争の「失敗学」の材料にも真珠湾の史実を使おうとしているからではないか。その一環なのか、米国が日本の奇襲攻撃を察知し、阻めなかった原因を分析する展示も目を引いた。

 

ひるがえって、日本の沖縄県平和祈念資料館や広島平和記念資料館は、戦争の悲惨さを伝え、反戦を訴えることに力点を置いているような気がする。多大な日本の犠牲を考えれば当然だ。

 

その上でこうも思う。真珠湾攻撃から約70年がすぎるいま、なぜ開戦を防げなかったのか、日本としても緻密に検証する作業が必要なのではないか、と。夕暮れの真珠湾をながめながらそんな意を強くした。
 
  (日本経済新聞論説委員兼編集委員)

 

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