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第8回(ハバロフスク・ユジノサハリンスク)極東ロシア・エネルギー資源(2008年9月) の記事一覧に戻る

金融危機は極東開発の逆風に(副団長:石川 一洋)2008年9月

極東として93年に極東開発計画をまとめたが、政府が採択したのが96年、実行に移され始めたのは06年からだ」。ハバロフスク地方のイシャーエフ知事は、ロシア中央がようやく極東開発に乗り出したことを皮肉った。

極東の親日派と言われるイシャーエフ知事は予定を大幅に超え70分にわたって会見に応じた。「日本と合弁事業の経験のあるロシアの自動車メーカーとの間で交渉が最終段階に入っている」。日本の自動車メーカーが争ってサンクトペテルブルクに進出するのはメドベージェフ・プーチン両首脳へのおべっかだと皮肉を述べつつ、日ロの資本のハバロフスク進出に期待を滲ませた。

そのハバロフスクから間宮海峡を越えて対岸にあるサハリン。「この場を借りて日本のビジネスを南クリル(北方領土)に招待したい」。サハリン州のホロシャービン知事はロシアの国力が増す中で北方4島へも予算を投下していることを強調して日本を牽制した。

ただかつてのサハリンのように領土問題ではあからさまな反日を示す姿勢はない。その背景にあるのは日本が参加したサハリンの石油ガス開発の進展がサハリン経済を支えていることである。石油ガス開発後の産業多角化がサハリンの課題だが知事は日本の企業の参加に期待を表明した。

サハリン島の南端に大型石油ガス開発サハリン2の天然ガス工場がある。日本の技術で建設されたこの工場はロシアで初めての天然ガス工場である。日本の三井・三菱が参画したサハリン2にはロシアのガスプロムが環境問題などを使い強引な圧力で一昨年、実質的に経営権を握った。しかし運営会社サハリン・エナジーの経営陣や実際の現場は世界的なメジャー・シェルが主力となっていた。シェル出身の社長や技術者はガスプロムとのチームワークが万全であることを強調した。世界的なエネルギー企業のしたたかさを感じた。

ロシアが国策として進める極東開発、しかし世界的な金融危機は大きな逆風である。ヨーロッパ部に比べて遅れた物理的、制度的、人的なインフラの整備とともに資金の手当てが大きな課題となるであろう。

(日本記者クラブ会報2008年11月号から転載)

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