ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


第8回(ハバロフスク・ユジノサハリンスク)極東ロシア・エネルギー資源(2008年9月) の記事一覧に戻る

いよいよLNG初出荷へ(小森 敦司)2008年9月

今回の私たち取材団の目玉は、なんと言っても、ロシア・サハリン州の巨大資源開発事業「サハリン2」の液化天然ガス(LNG)基地の見学だった。年明けにも、ここから日本などに向けてLNGが出荷されるからだ。「2」のほかにもサハリンではガス・油田開発が進んでおり、東シベリアからの太平洋パイプラインと合わせ、いよいよロシア極東部がアジア地域の巨大エネルギー供給源として姿を見せることになる。

今回、訪れてみて実感したのは日本との「近さ」だ。南部アニワ湾に面したこの基地から東京湾までタンカーで2、3日だという。埋蔵量も豊富。「2」のガス埋蔵量は17兆立方フィート。日中間でもめた東シナ海・春暁ガス田一帯の埋蔵量は1兆立方フィートほどだから、なんと「大きい」ことか!(ほかにサハリン1や3だってある)。

基地内の天然ガスを液化する施設や、州北東部の沖合で生産されるガスと石油をここに運ぶ約800㌔のパイプラインは、ほぼ完成していた。生産されるLNG年960万㌧も完売状態。日本国内向けが約6割を占める。日本の年間LNG輸入量の1割弱に相当する。残りは米国や中国、韓国向け。夏場限定だった石油販売もこれで通年でできるようになるという。

ロシア政府系「ガスプロム」が07年に事業主体の「サハリン・エナジー」の株式の過半を握った際には、ロシア政府の強権発動といった見方があったが、サハリン・エナジーのイアン・クレイグ最高経営責任者は、「(ガスプロムは)陸上パイプラインの敷設などで後押しをしてくれる。ロシア資本が入ったことで当社の課題対処能力は増した」と答えた。また、あるサハリン・エナジーの関係者は「外資だけの事業は不自然だった」との感想を語ってくれた。

こんな形で、LNG初出荷に向けた準備は順調に進んでいるように見えたが、地元はこれからが正念場かもしれない。一時は数千人規模に及んだ出稼ぎの作業員がいなくなるなど、建設特需がはがれ落ちるからだ。同州のホロシャービン知事も私たちに「今後は木材など加工産業にも力を入れ、産業構成を変えていきたい」と語った。 

(日本記者クラブ会報2008年11月号から転載)

ページのTOPへ