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第6回(インドネシア、ベトナム)日本進出企業に政治改革の光と影(2007年2月) の記事一覧に戻る

『フラット化する世界』に「?」(気仙 英郎)2009年9月

 「さて、何がおもしろいかな」
 出発の前日、おそまきながら、今回のアジア訪問団の日程表をながめて考えた。生来な怠け者であるので、何かテーマを決めないと楽しく食べて飲んで「あ~、楽しかった」で終わるのは目にみえているだけに、何か目的を自分自身に課す必要があった。

 ベトナムとインドネシアのキヤノンとトヨタの工場見学や両国の閣僚、うまくいけば首相と大統領と会えるとの日程。単なる工場ルポでもおもしろくないし、あれこれ思案しているうちに、ニューヨーク・タイムズのトーマス・フリードマンが言っている「グローバルな世界でフラット化がすすめば、平和で豊かな社会が実現可能」という命題を2国で検証できればと考えた。

 キーワードはサプライチェーン。そこでは、日系企業がまさにグローバルな市場を見据え、いかに効率よく低コストで、しかも、在庫を抱えずに高品質の製品を世界に安定供給できるかに腐心している現場を見ることができた。

 ベトナムとインドネシアの対比もおもしろかった。ジェトロ・ハノイセンターの石渡健次郎所長によれば、2005年の中国における大規模な反日デモや人民元の切り上げなどを機に、ベトナム進出を相談に来る企業が増加した。ベトナム人気の背景には、日・ベトナム投資協定や07年1月にはベトナムが世界貿易機関(WTO)に正式加盟するなど投資環境が整備されたことがあるが、みずほコーポレート銀行の浅野耕治・ハノイ支店長は「中国と違ってベトナムでの事業の利益を日本に送金できるメリットがある」と強調していた。

 一方、インドネシアについては、意外に冷めた意見に驚いた。新たなインドネシアへの投資は日本政府が国家戦略として取り組むならば、あり得るが、民間としては積極的なインセンティブはないというものだった。日系企業には30年以上の現地生産の実績やノウハウがあるはずだが、汚職に加え、「一度雇った人を解雇することが困難」など文化的な差異も大きいのだという。

 両国の対比でいえば、企業のベトナム進出の動機として、文化的・民族的な日本との親和性を指摘する声が多かったことが興味深かった。中国と同じ共産党による一党独裁体制でありながら、政治・社会、治安が安定し親日的であることや仏教国であることなど日本企業が融和しやすい条件が整っている。ベトナム日本商工会の方が「中国では隠している日の丸がベトナムの日系工場では堂々と翻っている。死者をむち打つ中国とは異なる文化がある」と話していた。

 グローバルな世界は、終わりなきコスト削減競争と技術革新競争を企業だけでなく、一般の国民に対しても必然的に強いる。「貿易は世界の貧困をなくすことに役立つ」という命題にもなかなか答えが見つからない。インドネシアは、富の分配がうまく機能せずに貧富の格差は拡大する一方で、ハノイとジャカルタの排気ガスによる大気汚染は一段とひどくなるようだ。今回の取材は結局、フラット化が世界を豊かにするというフリードマンの考えに疑問符を付ける結果になってしまった。頭では理解できても体がどうも納得しない。経済の理屈では、フラットな社会は豊かになるはずだが、政治・社会システムや文化的な要因が、理屈通りにいかない障害になる。旅行最後の日、インドネシアの料理との親和性をうまく保つことができず、デンパサールのホテルで嘔吐と発熱と下痢で悩みながら考
えたことだ。

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