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第6回(インドネシア、ベトナム)日本進出企業に政治改革の光と影(2007年2月) の記事一覧に戻る

たくましきは女性(広瀬 和彦)2009年9月

 「このあたりの地価は坪200-300万だそうです」。「ドンですか、円ですか」。「円ですよ」――ハノイの日本大使館で、ベトナムの経済発展を語る服部則夫大使の言葉に少し驚いた。為替レートから大まかに計算しても、平均的労働者の月給100ヶ月分以上になる。このものさしだけで、地価が高いとか低いとかとやかく言うのは単純かもしれない。でも、ベトナムの人がハノイの一等地を手に入れるのは、日本人が銀座の一等地を手に入れるより、きっと難しい。

 朝食会に来てもらったベトナム日本商工会の商社マンは「どういう計算をしても、そんな地価で採算の取れる商売はありません。この国の明るい将来を先取りしているのでしょうが……。ベトナムは通貨危機を経験していないので、少しオーバーヒートしているかもしれません」と苦笑した。

 しかしベトナムはあくまで楽観的だった。地価上昇についての懸念を聞こうとする質問に、政府高官は「経済が発展し、地価はもっと上がる」と屈託ない。バブルを知らない人にとって、ピントがはずれた質問だった。成長を支える外資の流入が度を越すと、突然逆流するというアジア通貨危機の教訓も、どこ吹く風だろう。

 若者の姿が目立ち、バイクが走り回り、信号代わりのクラクションが鳴り響く道路。モノを買っている人よりも売っている人の方が多いという感覚にとらわれる街角。活気にあふれる国に、心配性の居場所はなく、「若い国」のたくましさを感じる。

 もっとも、目を凝らすと、たくましいのはベトナム女性だ。現地生産している米国のアウトドア用品、スポーツシューズなどがところ狭しと並んだ店先で、「何でも売るぞ」という気合を見せているのは女性だった。日本人にとって懐かしい田園風景のなかで、小さな樹木を丹念に手入れしている女性は、盆栽として日本に売り込んでいる。

 男性といえば、あてもなくバイクで走りまわっているような気がした。

 バスの窓から眺めながら、ふと思い出した。ベトナム戦争の写真展で「ベトナムでは女性も高射砲を撃つのか」と眺めた記憶。ひょっとしたら「女性が撃っていた」と言い換えるべきかもしれない。

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