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第6回(インドネシア、ベトナム)日本進出企業に政治改革の光と影(2007年2月) の記事一覧に戻る

クルマばかり見てました(村上直人)2009年9月

 現地時間午後11時。予定より約30分遅れて着陸したハノイ・ノイバイ空港で、日本人の多さに驚きながら入国手続きを終えた。バスへ向かう道すがら、目に入る車のメーカーを確認する。バスやタクシーは「DAEWOO(大宇)」「KIA(起亜)」の韓国勢、少数派だが高級車はBMWやメルセデス。「TOYOTA」はさすがにオールラウンド・プレーヤー、営業用とおぼしき車から、おそらく党幹部のものであろう高級車まで幅広い。

 取材団が乗ったバスも大宇だった。韓国勢でもバス、トラックの大型は大宇、タクシーは起亜が多いようだ。ちなみに、韓国のトップメーカーである現代は、ミドルクラスのセダンから高級車、といったところが“居場所”らしい。

 翌日、深夜ではわからなかったハノイの道路事情をあらためて目の当たりにする。バイク、バイク、車、バイク。ベトナムを訪れた誰もが驚くようだが、やはり二輪の洪水に目を奪われる。目だけではない。耳も、鼻も。

 車より軽いエンジン音も、大集団となると凶暴そのもの。暴走族の減った昨今、日本であれほどのバイク音に襲われることはない。そして、原付のエンジン特有の少し甘い排気ガスの臭い。30分も街中にいると気分が悪くなってくる。

 そんな市街地の道ばたで、日がな一日、井戸端会議風に過ごす男の人たち。働いてるのは女性ばかりじゃないか・・・と半ばあきれながらも「この排ガスの中で平気とは、さすが米軍を追いかえした猛者」と妙な感心をしてしまった。

 ノーヘルで2人乗りは当たり前、信号はほとんどなし。ハノイの道でもっとも必要なのは「気合い」。日本の6割程度の人口で交通事故死者は倍、というのもうなずける。

 バイクは、圧倒的にホンダ。脇団長の解説では、5年前に比べコピーバイクが激減した、と。なるほど、貧相なスーパーカブタイプばかりかと思いきや、日本でも結構値がはりそうな立派なスクーターも目につく。庶民の収入で買えるのか?との疑問には「国外で活躍する”越僑”が多い。彼らからの仕送りで買っているのもある」と、ガイドさんが説明してくれた。

 ジャカルタでは、トヨタの強さに感心するばかりだった。

 「ハノイでは小型車は韓国車が多かった。コストで強い韓国勢に脅威は感じるか?」との質問に、現地法人の伊原木秀松社長は「んー、まあ、脅威とまでは――」。柔らかい口調だが、「この国のモータリゼーションを引っぱってきたのは我々」という自信を隠すつもりはないようだ。

 主力車「キジャン("鹿"の意)」は77年から生産をはじめ、いまの型が5代目。販社「トヨタ・アストラ」の藤井副社長いわく「いまだに初代が走っていますよ」。

 目線が高い大型バスを降り、タクシー(これもトヨタ車)で街に出て、よくわかった。元はピックアップ・トラックだった初代は、改造されて乗り合いタクシーや小型のスクールバスとして今でも現役で働いていた。

 トヨタ工場で生産過程を見た現行のキジャンに乗る機会にも恵まれた。ホテルから8人で市場へ行こう、とタクシー2台の手配を頼んだところ「1台で乗れるのを呼ぶよ」との返事。現れた3列シートのワゴンが、5代目キジャンだった。「8人乗りだからね」。なるほど・・・ん?ドライバーは? 1人定員オーバーで乗り込む羽目になったが、乗り心地は上々。日本市場で売っても成功するのでは。

 ジャカルタの道路事情で忘れてはいけないのが、オレンジ色の3輪タクシー。文字通り「隙あらば」突っ込んでくる勇敢さに、何度も恐怖を覚えた。そんな彼らも、排ガス規制でここ数年のうちに姿を消す運命だという。

 排ガスも交通事故死もなんのその、遅ればせながらモータリゼーションをまい進し始めたベトナムと、環境対策も導入し、ハイブリッド車も走るインドネシア。若さと実績、勢いと停滞、ASEANでも好対照の両国の違いを、そんなところにも感じた。

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