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6.15 運命の日 ニュースカメラマンとして決死の撮影(青木 徹郎)2010年8月

 「60年安保」といえば、当時国会周辺では、連日「安保反対」デモが行われ警察機動隊とデモ隊との衝突が繰り返されていた。テレビ局に入社しニュースカメラマンになり2年目を迎えていたが、その頃は、デモ取材に明け暮れていた気がする。そうした中で、6月15日夜デモ隊が国会構内に突入した際、機動隊との激突による混乱の渦中に、亡くなった東大生の樺美智子さんのことが思い出される。
岸政権が、「新安保条約」の国会の承認議決を強行した5月19日前後から連日、安保反対デモが労組や学生が中心に全国各地で展開されていた。
  この日を境に、安保反対闘争が、野党陣営のみならず、自民党の反主流も加わった“岸内閣打倒”“民主主義擁護”の大衆運動に変質していった。ある時から銀座通りで、両手をつなぎ道路一杯に広がって歩く、いわゆる“フランス・デモ”が展開されるようになった。歩行中の人達が、飛び入りでデモ行進に参加する者も多かった。日本の民主主義も地に着いてきたような気がした。
  そして「運命の日」6月15日を迎えた。この日は統一行動日とあって全国でおよそ600万人がデモに参加した。当日の取材体制は、報道の記者やカメラマンが総動員された。
社会党はじめ労組員や全学連、文化人それに一般の人たちが、何箇所かに分かれて集会を開いた。

 デモ隊を撮影する筆者

 当日夕方から雨模様となり、日中は比較的穏やかな請願デモが続いていたが、参議院通用門付近で、右翼が木刀などでデモ隊に襲いかかり多数のけが人が出た。
  衆議院の南通用門付近では、各社のテレビ中継車や取材チームが集結していた。
全学連主流派約8000人が、降りしきる雨の中を激しい渦巻きデモを展開し、警備の機動隊と激突を繰り返した。眼前に繰り広げられる光景にこれまでにない緊張と興奮を覚えた。学生達は、南通用門の扉を破壊して国会構内に乱入し、およそ5000人が中庭を占拠した。  その後、機動隊は一部の学生達を押し返したが、午後7時過ぎ、ずぶ濡れになった学生達4000人が、「安保反対」「警察は出てゆけ」などと叫びながら再突入を図り、押し返そうとする機動隊と大混乱となり、学生達も機動隊双方とも興奮状態になっていた。こちらも機動隊とデモ隊とがもみ合う脇で、巻き込まれないよう“決死”の撮影であった。
 その時警備のすきをぬって突入した十数人の学生たちが“将棋倒し”となり地べたに倒れた。立ち遅れた女子学生ら数人の上に、学生たちが折り重なるように倒れるのをレンズ越しに見ることができた。その瞬間、取材中の数人のカメラマンが「誰か下敷きになっているぞ」と叫んだが、デモ隊のシュプレヒコールと怒声に打ち消され気付く者はいなかった。
  南通用門付近では、相変わらず機動隊と学生たちとの激しい攻防は繰り返されていた。 雨もやみ夜明けになると、機動隊が指揮官の「全員検挙」の号令で実力行使に入った。怪我を負ったり、飢えと疲労で抵抗する気力も失せた学生達は、警官に警棒で殴られたり、首を捕まれてあっというまに国会外へ排除され、次々と護送車に押し込まれた。国会周辺は、怪我人や逮捕者を運ぶ救急車や警察車両のサイレンで騒然としていた。
 その時、無線機が呼んでいるのに気付いた。本社のデスクから「南通用門付近で重症を負い逮捕された女学生が亡くなったらしい。至急水道橋の警察病院へ行ってくれ」とのことで警察病院へと急行した。車中でデスクに「9時頃オートバイで送った原稿に、白っぽい着衣の女子学生が写っている。該当者かもしれない」と一報は入れておいたが、特ダネ映像があったのか確認するいとまもなかった。



  警察病院には明け方まで負傷者が次々と運び込まれ、まるで戦争映画で見る野戦病院のようだった。このデモで樺美智子さんが亡くなり、およそ600人の学生たちが重軽傷を負った。
  翌日、大学教授陣による「警察暴力への抗議」の追悼デモ、18日には、樺美智子さんの追悼集会が全国で行われ、およそ30万人がデモに参加して彼女の死を悼んだ。 
 樺さんが亡くなって間もなく、西田佐知子が歌う「アカシアの雨が止むとき」が、彼女に捧げるレクエイムだったのか、口ずさむ人が多くなった。
 こうして、多くの死傷者を出した安保反対闘争は、野党や文化人らによる“民主主義擁護運動”と自民党反岸勢力による攻勢が複合して“岸内閣打倒運動”へと大きく盛り上がった。それでも岸首相は、「声なき声もある」と強弁していたが、6月19日の「新安保条約」の自然承認を待って退陣した。
                                  (元TBS記者・1937年生まれ 2010年8月記)
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