2025年04月24日 15:30 〜 17:00 10階ホール
「戦後80年を問う」(5) 吉野彰・旭化成名誉フェロー

会見メモ

1948年1月生まれ。1回目の大阪万博が開かれた会場の近くで育った。サイエンスの道に進んだのは、竹藪に囲まれ自然の中で遊ぶ中で自然科学の面白さを感じたことと、小学校の先生との出会いが大きい。「ケミストリーは化学と書く。なぜなら物が化けるから」と教わった。「やってみないとわからないというファクターが多い。偶然、失敗…。当初考えていなかったことにでくわし、最終的に大きな成果につながる。子ども心にそう思った」。

サイエンスとの出会いに始まり、戦後、サイエンスを重視する機運が高まり、経済復興が進む中で日本はどう科学技術を育ててきたのか、リチウムイオン電池開発の経緯、大学や企業の研究環境の変化と課題、2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向け日本が果たすべき役割など、多岐にわたる質問に答えた。

 

司会 倉澤治雄 日本記者クラブ企画委員


会見リポート

炭素ゼロ社会をチャンスに

杉森 純 (読売新聞社科学部)

 「戦後80年を問う」がテーマだったが、過去の振り返りよりも、2050年のカーボンニュートラル(炭素ゼロ)社会を見据えた吉野彰さんの明確な展望と意志が印象に残った。

 今年も春先から暑い日が続くなど、地球温暖化による異変を身近に感じる。米国トランプ大統領の就任で少し混乱も生じているが、地球の環境を守るため、温室効果ガスの排出削減は待ったなしの課題だ。

 吉野さんの開発したリチウムイオン電池は携帯電話や自動車に使われるだけでなく、風力や太陽光で作られる再生エネルギーを貯めて有効利用する技術としても期待されている。しかし、炭素ゼロ社会の実現には、さらなる技術革新が欠かせない。

 日本の貢献が期待されるが、科学技術力の低下が懸念されている。

 「(炭素ゼロ社会が実現すると)今の産業はなくなり、新しい産業が生まれる。日本の貢献が25%なければ、産業は成立しなくなる。日本は沈没してしまう」と、吉野さんは危機感を募らせた。

 ただ、悲観論で終わらせないのが吉野さん流だ。

 「昔ながらの化学が重要な役割を果たす。得意の分野でこれまでの蓄積を生かせる」。再生エネルギーを利用して、水を分解して水素を作ったり、アンモニアに変換したりする技術を例に挙げ、期待感を示した。

 さらに「2050年に向けてやるべきことは決まっている。活躍の場は約束されている。絶好のチャンス」と次代を担う若い世代を励ました。

 科学技術を社会に役立てる必要性を訴える一方、基礎研究の重要性への言及も忘れなかった。

 「大学の先生には、卵となるような面白い研究をしてほしい。何に役に立つかは、私たち産業界の研究者が考える」。終戦間もない時期に生まれ、高度経済成長期に企業の研究者として活躍した吉野さんの「矜持」を感じた。


ゲスト / Guest

  • 吉野彰 / Akira YOSHINO

    旭化成株式会社名誉フェロー

研究テーマ:戦後80年を問う

研究会回数:5

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