2025年03月04日 13:30 〜 15:00 9階会見場
「中国で何が起きているのか」(25) 呉国光・スタンフォード大学中国経済研究所上席研究員

会見メモ

中国の習近平国家主席は共産党内で盤石の権力基盤を築いているようにみえる一方、中国経済は深刻な不動産不況を背景に不振が続いており、治安の悪化も目立つ。

スタンフォード大学中国経済研究所上席研究員の呉国光さんが、"The Xi Jinping Phenomenon: Institutional Foundations and International Implications"(習近平現象:制度的基礎と国際的意味合い)と題し登壇。習氏が短期間で権力集中を成し遂げた背景や、中国共産党の機構はどのように習氏を育て、力を与えているのか、国際関係における意味などについて解説した。

呉さんは1980年代に中国共産党機関紙「人民日報」評論部から、当時の趙紫陽総書記の下で中央政治体制の改革検討チームに加わった経験を持つ。

 

司会  高橋哲史 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞社)


会見リポート

共産党の制度が集権を可能に

塩澤 英一 (共同通信社論説委員)

 中国共産党の習近平総書記は、個人崇拝化と言われるほどに権力を自らに集中させている。前任の胡錦濤総書記の時代は、最高指導機関である政治局常務委員会9人の集団指導だったのに、なぜ習氏は急速に権力を集中させることができたのか。

 習氏の個人的資質という分析もあるが、呉氏は市場経済化の進展で官僚腐敗が深刻化するなどの「社会経済的要因」と共産党が持つ「制度的要因」から説明した。

 腐敗した官僚らを粛正するプロセスを利用して権力を集中させた。制度的要因は、呉氏が著書『権力の劇場』(中央公論社)で詳細に論証しているものだ。自身が党大会の運営に参画した経験があるだけに説得力がある。

 共産党の制度はトップになれば何でもできてしまう。その制度は毛沢東時代から基本的に変わっていない。5年に1度開かれる党大会は、一見民主的にみえるが、権力を正統化するための壮大な「劇場」に過ぎないというのが呉氏の指摘だ。正統性が権力を与えるのではなく、権力が「制度操作」で正統性を作り出している。 

 共産党はこの非民主的な政治制度を改革しようとしたことがあった。1987年の第13回党大会だ。呉氏は「私自身が関わったが、改革は天安門事件が起きて失敗した。成功していたら今も中国にとどまっていただろう」と振り返った。

 共産党は権力の分散が進むかに見えたが、この制度故にあっさりと逆戻りした。胡氏にはそれができなかったが、習氏ができたのは「政治のパワーゲームにたけていたからだ」という。

 呉氏のもう一つの視点は、権力集中が中国だけで起きているわけではないため、これを「習近平現象」と呼んだことだ。中国の政治制度は権力者がまねたくなるソフトパワーも持っているともいう。呉氏は「習近平現象」がさらに広がっていくとみているのか。答えを聞きたかったが残念ながら時間切れとなった。


ゲスト / Guest

  • 呉国光 / Guoguang Wu

    スタンフォード大学中国経済研究所上席研究員 / Senior Fellow at the Stanford Center for Chinese Economic Studies

研究テーマ:中国で何が起きているのか

研究会回数:25

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