2024年09月11日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「巨大地震を考える」(2)南海トラフ地震発生の可能性 平田直・東京大学名誉教授

会見メモ

気象庁の「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の会長を務める。臨時情報の制度創設までの流れや、8月8日に宮崎県沖の日向灘での地震を受け臨時情報(巨大地震注意)を発出するに至った経緯、「30年以内に70〜80%」と周知される南海トラフ地震の発生確率の意味などについて話すとともに、質疑に応じた。

 

司会 倉澤治雄 日本記者クラブ会員


会見リポート

予知の「亡霊」メディアに

渡辺 洋介 (読売新聞社科学部)

 南海トラフ地震が発生すれば、国難級の災害となる恐れがある。8月には初となる臨時情報(巨大地震注意)が発表されたが、平田名誉教授は「一部で予知の情報のように誤解されたのは残念。地震は何の前触れなく起きることが圧倒的に多い」と強調した。

 巨大地震注意は「南海トラフ地震が起きる可能性が平時より高まった」として地震に対する備えの再確認を呼びかけるもので、予知の情報ではない。平田名誉教授が「この情報をどう使うかは極めて難しい」と語るように不確実性の高い情報でもある。今回の臨時情報で、一部では海水浴場閉鎖や旅行自粛などの動きが出た。2019年に運用が始まったが、周知が進まない中で初めて発表されたため、予知の情報として受け止めた人も一定程度いたのかもしれない。

 国は17年に東海地震の予知を前提にした防災対応を大きく転換している。政府の作業部会主査として見直しに関わった平田名誉教授はこの日、「断腸の思いで予知はできないと申し上げた」と地震学者としての無念さを改めて語った。

 その上で、今回の臨時情報では事前の備えの大切さが改めて注目された。平田名誉教授は気象庁の南海トラフ地震評価検討会長としても、「巨大地震はいつ起きても不思議ではない」と事前の備えの重要性を頻繁に呼びかけてきた。地震の予知はできなくても、命を守るためにできることはある。この日も、建物の耐震化を進めることや津波から早期避難できる状況を整えておくことで人的被害を大きく抑えられると訴えた。

 一方、「地震予知の亡霊にとらわれているのは科学者ではなくメディア」とも指摘した。臨時情報を巡る今回の一連の報道を振り返り、不確実性のある情報をどう扱えばよいか。「正しく恐れる」にはどうしたら伝わるか。市民が防災行動につなげられるように、メディアとして適切な情報発信のあり方を見つめ直していきたい。


ゲスト / Guest

  • 平田直 / Naoshi HIRATA

    東京大学名誉教授

研究テーマ:巨大地震を考える

研究会回数:2

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