2024年08月26日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「変わる『家族』」(4) 渡辺由美子・認定NPO法人キッズドア理事長

会見メモ

日本の子どもの9人に1人が貧困状態にある。特にひとり親世帯の貧困は深刻な状態にあり、中でも母子世帯は

親の就業形態が非正規の率が高く雇用の不安定さもある。

2007年に事業を開始して以降、困窮家庭の子どもの支援を続けてきた認定NPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長が「本当の意味でのこどもファーストな国へ」と題し登壇。

コロナ後、物価高騰が続く中で厳しい生活環境におかれている困窮世帯の実情をアンケート結果などから示すとともに、家庭の経済状況によって子どもの学びの機会に格差がでている状況を是正するために必要な支援の在り方などについて話した。

住民税非課税世帯に限定した困窮者支援策の問題点にも触れた。

 

司会 小林伸年 日本記者クラブ企画委員(時事通信社)


会見リポート

子どもは特別扱いするべきだ

池谷 孝司 (共同通信社編集委員・論説委員)

 「電気代が高いから冷蔵庫を手放そうか、と検討している方もいます」。渡辺由美子理事長の沈んだ声に、会場には驚きが広がった。キッズドアは低所得世帯に食料支援をしている。主な対象は母子家庭だ。この家庭は「テレビも風呂もガスもない生活」だという。

 食料を詰めた宅配便に同封したはがきが、感謝の言葉と窮状を訴える悲鳴を書き込んで返送されてくる。子どもも親も痩せ、肉や魚、米まで買えない家もある。学習机がない家も多い。新型コロナ後の物価高騰で困り果てる低所得世帯の実態が次々に紹介され、切ない記者会見だった。

 「子どもの貧困対策推進法」の施行から10年。6月の法改正を受け、国の対策に期待がかかる。だが、国の支援対象は住民税非課税世帯に偏りがちだ。「収入が少しオーバーするため給付金がいただけず、毎日苦しく大変な思いをしています」という声も紹介された。

 子育て世帯への支援を繰り返し求める渡辺さんに対し、政府は「なぜ子どものいる世帯だけ特別扱いなのか国民に説明できない」との立場を崩さない。「子どもだから特別なんです」。それが渡辺さんの答えだ。求めるのは「本当の意味でのこどもファースト」。全くその通りで、子どもは特別扱いするべきだ。

 貧困状態の子どもの割合は2021年時点で9人に1人になり、数値の上ではやや改善したが、渡辺さんは「実態と懸け離れている」と語る。

 キッズドアは塾に通えない子のために無料学習会を開いてきた。親から子への「貧困の連鎖」を断つには教育が切り札になるからだ。親の収入で学力が決まる教育格差を埋める挑戦だ。

 教育予算を未来への投資と考えて支出を増やす諸外国に比べ、少子化だから増やす必要はないと考える日本に明るい未来はない。近く総選挙が想定される。来年度の予算編成も近づいてくる。格差を縮めるため、もう少し国の力で何とかならないものかと願う。

 「日本の母親は世界一のワーキングプア」という渡辺さんの言葉が耳から離れない。


ゲスト / Guest

  • 渡辺由美子 / Yumiko WATANABE

    認定NPO法人キッズドア理事長

研究テーマ:変わる『家族』

研究会回数:4

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