会見リポート
2024年07月25日
13:30 〜 15:00
10階ホール
「変わる『家族』」(2) 宮本太郎・中央大学教授
会見メモ
比較政治、福祉政策論を専門とする中央大学教授の宮本太郎さんが「家族はどこまで変わったのか 日本型生活保障と家族変容」をテーマに登壇した。
両働き世帯は増えたものの、育児と就労の両立を妻に求めており、夫の働き方は変わっていない。「これらの世帯(ネオ昭和モデル)を含めると、なお昭和モデルが多数」。
年功賃金で男性稼ぎ主(父)の安定雇用を支え、その稼ぎ主の扶養力を高めるために国民皆保険・皆年金に注力する。日本型の生活保障の仕組みは、「ネオ昭和モデル」を支え、硬直させてきたと解説した。
大多数が「安定就労+社会保険加入層」だった時代は終わり、福祉の需給基準を満たせない、低所得不安定就労や扶養から外れた一人親世帯などの「新しい生活困難層」が急増している。この「新しい生活困難層」こそ「家族問題や少子化対策を考える上で決定的に重大な問題」と強調した。
多様な家族に対し、生活保障はどうするべきなのか――。働き方の多様化を進め安定就労を拡大すること、勤労所得を補完する所得補償、家族ケアの負担を減らすための良質な就学前教育などを挙げた。岸田政権が進める三位一体の改革については、「働く側だけを鍛えようという施策。スウェーデンでも限界に達したものであり、2周回遅れ」と断じた。
司会 辻本浩子 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞社)
会見リポート
新たな困難層へ届く支援を
宮武 剛 (毎日新聞社客員編集委員)
「昭和モデルは根強い」という。
夫は勤め人、妻は専業主婦、子は2人の典型は確かに少なくなったが、妻はフルタイムやパートタイムで働きながら育児、家事も担う変形を含めればなお多数派である。
一方、生活保護とボーダーライン層の従来型困窮者は依然多い。
この両方の間で急増する「新しい生活困難層」こそ、家族や少子化を考えるうえで決定的に重要だ、と宮本太郎氏は解剖してくれた。
非正規労働者群、母子、父子世帯、公的支援を得にくい軽度の知的障害者、低年金の老齢世帯、80歳代の親に経済的に頼りながらケアする50歳代(8050問題)~。
彼ら彼女らは昭和モデルのような安定就労と社会保険の支えから突き放され、生活保護に代表される福祉受給層にも入れない。
「泉房穂さん(兵庫県明石市の元市長)のような取り組みが必要です」と指摘した。『お父さんは収入不安定、たまに暴力、お母さんはパートを打ち切られ、子どもは不登校がち、おばあさんは半分寝たきり』(自著『子どものまちのつくり方』)。泉さんは、そんな家庭を「標準」に第二子以降の保育完全無料、ゼロ歳児へおむつ支給、中学校の給食無料、高校生まで医療費無料等を実現した。すぐれた実務家と研究者は発想も対策も似通う。
宮本さんはいつも「生活保障」と呼び、社会保障と雇用を両立させる大事さと難しさを語る。今回も「新しい生活困難層へ届くセーフティーネットを」「若い世代へ具体的な経済的支援策を」「社会的弱者の就労機会をどう作るか」と説いた。たとえば「引きこもりの若者が自室をオフィスにホームページの作成を仕事にしている。知恵と努力で福祉と雇用はつなげる」。
激しく変容し、分断された家族群に社会福祉は、いったい対処できるのか。この大命題に会見1時間半は短すぎて気の毒だった。
ゲスト / Guest
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宮本太郎 / Taro MIYAMOTO
中央大学教授 / Professor, Chuo University
研究テーマ:変わる『家族』
研究会回数:2