2024年03月13日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「働く人材クライシス」(3) 加藤博和・名古屋大学大学院教授

会見メモ

 冒頭、自身を「現場泥まみれ野郎」と紹介した。研究者だが、大学にはほとんどいない。社会活動と位置付ける地域公共交通プロデューサーとして全国各地の現場で地域公共交通の活性化や再生に向けた支援、助言活動を展開している。

 「なぜ地域公共交通の運転手が足りないのか」と題し、地域公共交通のスキーム、運転手の労働環境の実情を詳説。地域公共交通の維持には「地域交通法などのスキームを用いながら、自治体が中心となり地域が一体となって公共交通の必要性やその維持費用を認識し支える体制を構築すること、運転者をリスペクトし地位と待遇を向上させること、その取り組みを国が支援することが必要」。

 

司会 菅野幹雄 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞社)


会見リポート

「運転者不足というより人件費不足」

原田 健男 (山陽放送出身)

 過疎化に悩む地方では鉄道・バスなどの地域公共交通が危機の中にある。日本全体が人口減なのでやむなしとも言えるが、近年は都会でも運転者の減少による便数の減少等も起きている。名古屋大学大学院の加藤博和教授は「問題は運転者不足というより人件費不足」だという。

 加藤教授によれば、かつてはバス・タクシー等の運転者の賃金は特に安かったわけではないそうだ。しかしバスの場合、2000年頃から就業環境が悪化してきて、今では一般労働者平均より労働時間が2割長く、賃金が1割低いという。賃金が上がれば、運転手になりたい人は増えるとみられるが、人口減で利用者が減っている地方でどうすればいいのか。

 加藤教授は例として自身が関わった岐阜県白川町・東白川村のケースを紹介した。ここではバスの運転者が定員の半分しか確保できなくなり大幅に便数が減って、町内の高校もついに閉校した。なんとかしなければと自治体を中心に立ち上がり、「バス」を①地域を走る路線バス、②JR駅と病院等主な施設を結ぶバス、③ボランティア運転者による自宅まで来てくれる予約制バス(スマホで予約)に分けた。そして自治体からの補助金を有効活用し、運転者の賃金も十分確保、町が支えているという安心感もあって運転者のなり手はいるという。高齢者もスマホに慣れ、バスを予約して利用しているそうだ。

 この白川町の例のように、自治体は公共交通に単に補助金を出すだけでなく町のインフラ・公共事業をしてとらえ、利用者だけでなく町民全体の財産として支える必要があるという。そしてバスの運転者は町に欠かせない職業であるとして、今後は国や県などが学校を作って公共交通の運転者を養成していくことも考えられると加藤教授は提案する。

 地域の人々の足として欠かせない公共交通。その維持のために知恵と工夫でまだできることはありそうに見える。デジタルの活用も欠かせない。


ゲスト / Guest

  • 加藤博和 / Hirokazu KATO

    名古屋大学大学院教授 / Professor ,Nagoya University

研究テーマ:働く人材クライシス

研究会回数:3

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