2024年02月26日 16:00 〜 17:30 10階ホール
「地方自治のいま」(5) 稲継裕昭・早稲田大学政治経済学術院教授

会見メモ

公務員制度に詳しく、国の公務員関係の委員会・研究会に多く参加してきた稲継裕昭・早稲田大学政治経済学術院教授が、地方自治体の担い手不足の現状と打開策などについて話した。

 

司会 小林伸年 日本記者クラブ企画委員(時事通信)


会見リポート

若者の公務員離れは「社会課題」

横田 愛 (毎日新聞社くらし科学環境部専門記者)

 20年近く前、地方勤務をしていた頃は小泉構造改革のまっただ中で、自治体職員は「削減」がニュースだった。今は状況が一変。「人手不足」の報道があふれ、自治体も担い手不足に直面している。この事態をどう捉えればいいのか。大阪市職員を経て大学教員に転じた稲継氏は、自治体の人材難は民間企業のそれとは質的に異なる「社会課題」だと警鐘を鳴らす。

 子どもや高齢者施策、道路整備、ゴミ処理、消防・救急――。自治体の仕事は住民生活に直結する。「競合他社」はおらず「良質の労働力確保が不可欠になる」。

 一方、自治体は人材確保にあえいでいる。学生が民間に流れる傾向が強まり、採用試験の競争率が低下。総務省の調査では「応募者の中に能力のある人材が見つからない」と答えた自治体が56%と人材の質も落ちつつある。若手の離職も増え、30歳未満の一般行政職の離職は22年までの9年間で2.7倍に増えた。

 地方公務員はなぜ、「選ばれない」「すぐに去られる」仕事になってしまったのか。稲継氏は硬直的な賃金体系に加え、若者の仕事観の変化を指摘。「自分が成長できる環境か」を重視する若者に対し、「自治体が、仕事の面白さややりがい、成長を提供できる組織となっているかが一番大きな問題だ」と語った。

 「日本の自治体の特徴は、多様な業務を極めて少数の職員数で遂行している」とも言う。日本の公務員は、多様な部署を異動して経験を蓄積するジェネラリストで、それが少ない人員で仕事を回すことを可能にしてきた側面が強い。採用難・早期離職が続けば早晩、組織がほころび、住民生活にも影響が及ぶだろう。

 記者会見の副題に「見えない解決の糸口」と記された通り、特効薬はないが、従来の発想にとらわれない地方公務員のあり方の模索が必要と強く感じた。


ゲスト / Guest

  • 稲継裕昭 / Hiroaki INATSUGU

    早稲田大学政治経済学術院教授 / Professor of Faculty of Political Science and Economics,Waseda University

研究テーマ:地方自治のいま

研究会回数:5

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