会見リポート
2023年07月28日
13:00 〜 14:30
10階ホール
「関東大震災100年」(8) 災害救命の主役は医療ではない 山口芳裕・杏林大学医学部救急医学教室教授
会見メモ
東京都の災害医療コーディネーターで、東京DMAT運営協議会会長を務める山口芳裕・杏林大学医学部救急医学教室教授が登壇。過去の地震災害でどのように命が失われたのかをデータから解説するとともに、災害医療態勢の現状と課題などについて話した。
山口さんは、災害救命のための実効性のある戦略が必要と強調。いますぐ着手すべきこととして、日本版FEMAの創設、ボランティアの整備・組織化、地域レジリエンスの強化の3点を挙げた。
司会 浅井文和 日本記者クラブ会員
会見リポート
災害医療に「市民の力」不可欠
伊藤崇 (読売新聞社社会部)
山口教授は長年、地震などの大規模災害時に被災地の初期医療を支援する「災害医療」に従事してきたが、災害現場に赴くたび、「医療の限界」を感じてきたという。
地震による災害死には、建物倒壊や火災、津波による「直接死」、初期医療を受けられれば助かるが、受けられずに命を落とす「防ぎうる死」、病院で治療を受けたが亡くなってしまう「医療管理下の死」、避難生活などで亡くなる「災害関連死」がある。このうち「防ぎうる死」を防ぐことが災害医療の役割だが、初期医療にたどり着く前に亡くなる人は少なくない。
阪神大震災では、建物の倒壊や火災などで6434人が犠牲となったが、初期医療体制の遅れもあり、平時であれば救えたはずの命は500~600人と推定されている。
阪神大震災などを教訓に、厚生労働省は2005年、「災害派遣医療チーム(DMAT)」の制度を創設。DMATは現在、全国の災害拠点病院などに計約1800隊あり、災害医療体制は以前に比べれば充実しつつある。
だが、必ずしも十分とは言えない。南海トラフ巨大地震では被害が国土の広範囲に及ぶため、「被災地に派遣できる医療チームが不足する恐れがある」と山口教授は指摘。幹線道路が寸断し、被災地にたどり着けない事態も想定されるという。
こうした「医療の限界」を打破するため、山口教授が提案するのが、米連邦緊急事態管理庁(FEMA)に倣った「日本版FEMA」の創設だ。FEMAは地震やハリケーンなどの自然災害やテロなどの緊急事態発生時、職員らを派遣して救助や医療活動などを行う。米国では連邦や州など各行政レベルでの緊急支援機能も明確化されており、「日本も同様の枠組みを作るべきだ」と訴えた。
さらに、「ボランティアの整備・組織化」と「地域レジリエンスの強化」の必要性も指摘。「市民の力なくして『防ぎうる死』は減らない」と強調した。
ゲスト / Guest
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山口芳裕 / Yoshihiro YAMAGUCHI
杏林大学医学部救急医学教室教授
研究テーマ:関東大震災100年
研究会回数:8