2023年05月12日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「人口減少 80万人割れの衝撃」 (5) 藤波匠・日本総合研究所上席主任研究員

会見メモ

日本総合研究所上席主任研究員の藤波匠さんが「なぜ少子化は止められないのか」をテーマに登壇した。藤波さんは、足元の少子化加速の主因は婚姻率の低下ではなく「若者の出産意欲の低下にある」と解説。少子化対策のあるべき姿として、様々な障壁により結婚・出産を断念している層への配慮が必要であるとしたうえで、経済雇用環境の改善、ジェンダーギャップの解消、若者世代の多様な選択を支える政策が重要になるとの考えを示した。

 

司会 小林伸年 日本記者クラブ企画委員(時事通信)

 

『なぜ少子化は止められないのか』(日本経済新聞出版、5月)

 

 


会見リポート

結婚と出産を分ける思考が少子化に影響

高橋 健次郎 (朝日新聞社くらし報道部)

 政府が掲げる「異次元の少子化対策」について、何が優先される政策か。シリーズ企画「人口減少 80万人割れの衝撃」第5弾に登壇した藤波匠・日本総合研究所上席主任研究員は、そうした疑問に答えた。

 「少子化の要因として『結婚が減っている』という話がある。正しい。だが、足元の原因は、それではないと考えている」

 会見は、少子化に関する「思い込み」の検証から始まった。足元の出生数の減少について最大の要因として指摘されたのが「(母親となりうる)女性の減少」だった。加えて「結婚と出産を分けて考える思考への移行」が、出生数の減少に大きく影響をしているとも述べた。

 その上で、未婚女性が予想するライフコースとして、正規雇用者に比べ、非正規雇用者の方が「非婚就業継続コース」を選択している点に着目。推測と前置きしつつ「積極的選択というよりも、そうなってしまうだろうと考える人たちが多い」と消極的な選択である点を強調した。

 確かな分析は、政策の方向感を見通す上でも役立った。

 児童手当の拡充策は焦点の一つ。多子加算について与党内には第2子以降を増額する案もある。だが、藤波さんは多子加算の効果を疑問視し「反対」との立場を表明した。会見後、政府が2子ではなく、3子以降の増額を検討しているとの報道が相次いでいる。藤波さんの指摘を踏まえれば、現実感のある政策決定に思えた。

 会見では「拙速な社会保険料アップ」は現役世代の負担増につながると警鐘も鳴らした。この点でも、政府は、すぐに負担増を求めず一時的な「つなぎ国債」の活用を検討していることが会見後、明らかになった。藤波さんの主張と符号する政策判断だ。

 現場記者にとっても、意義深い会見だった。


ゲスト / Guest

  • 藤波匠 / Takumi FUJINAMI

    日本総合研究所上席主任研究員

研究テーマ:人口減少 80万人割れの衝撃

研究会回数:5

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