2023年04月26日 16:00 〜 17:30 10階ホール
「 人口減少 80万人割れの衝撃」 (4) 子育ては社会全体で~社会保険と所得再分配 権丈善一・慶應義塾大学教授

会見メモ

慶應義塾大学の権丈善一教授が、「所得の再分配政策とは ひとつの事例として子育て支援連帯基金を考える」をテーマに登壇した。

 

司会 竹田忠 日本記者クラブ企画委員(NHK)

 

★当日の投影資料はこちら、事前資料はこちらからダウンロードできます。

 ご活用ください。


会見リポート

「次元の異なる」社会保障政策論

川嶋 三恵子 (読売新聞社論説委員)

 岸田首相は「次元の異なる少子化対策」を掲げ、財源確保策を6月の骨太方針で示す考えだ。政府や経済界、国民を巻き込んだ財源論議が始まろうとするなか、「子育て支援連帯基金」を提唱してきた権丈善一・慶應大商学部教授が登壇した。

 おそらく、フロアの多くは基金の具体的な構想を聞けると期待していたのだろう。だが、権丈氏は「財源論は2分で終わる話」とかわし、再分配政策としての社会保障という本論から入った。

 権丈氏が強調したのは、「社会保障は世の中の問題を解決するために存在する」という点だ。社会保障は国民の生活を支えるだけでなく、中間層を育成し、購買力を底上げして、資本主義の持続可能性を高めている。こうした社会保障のプラスの機能を評価すべきだと訴えた。

 また、「大人の世界の民主主義」とも言える政治的な力学が働きやすいことも指摘した。関係する組織や団体は、自らに都合のよい制度変更を求める活動(レントシーキング)をする。官僚や学者、メディアは有権者に正確な情報を発信することが大切だと語った。

 質疑応答では、基金を提唱した経緯を振り返った。2017年に自民党の小泉進次郎氏ら若手議員らが提案した「こども保険」構想が批判を浴び、権丈氏が助け舟を出した。それ以前から、権丈氏は「子育て費用を親に負担させたままでは、高齢者だけが優遇されているという意識が強まり、本当の世代の分断が生じかねない」と警鐘を鳴らしていた。

 高齢期の生活に不可欠な医療、介護、年金制度は、次世代によって支えられる。その次世代を育むため、高齢者を含む全世代が拠出するのは、制度の持続可能性を高めるうえでも必要性が高い、というわけだ。

 今回の会見は、若い記者向けの勉強会を開くという話の延長線上で実現したという。当日は新たな将来推計人口の公表と重なり、出席が叶わない記者もいたかもしれない。現場の記者は目の前の取材に追われがちだが、社会保障制度の意義をどう捉えるかは取材の基本姿勢に大きくかかわる。会見前に配布された事前資料もホームページにアップされているので、若い記者にはぜひ一度、権丈氏の「次元の異なる」社会保障政策の講義を受けて取材に臨んでもらいたいと思う。


ゲスト / Guest

  • 権丈善一 / Yoshikazu KENJOH

    慶應義塾大学教授 / Professor, Keio University

研究テーマ:人口減少 80万人割れの衝撃

研究会回数:4

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