2023年05月30日 16:30 〜 17:30 10階ホール
総会記念講演会 岩井克人・東京大学名誉教授

会見メモ

ポスト産業資本主義にあるべき会社の姿を考察した『会社はこれからどうなるのか』(平凡社、2003年)などの著書がある岩井克人・東京大学名誉教授が「資本主義はどこに向かうのか?」の演題で話した。

 

司会 前田浩智 日本記者クラブ理事長

 

★YouTubeでのアーカイブ配信は行いません。


会見リポート

会社の多様性 今こそ必要

木村 裕明 (朝日新聞社経済部)

 2020年の総会記念講演会に登壇の予定だったが、新型コロナの感染拡大で中止に。コロナ禍を経た世界に、株主中心の資本主義への懐疑と、SDGsやESGの考え方を取り込んだステークホルダー資本主義を模索する試みが広がる中、3年越しで実現した講演となった。

 「会社の唯一の社会的責任は利潤を増大させること」「会社は株主の利潤追求の道具でしかない」

 半世紀以上前にそう説いて株主資本主義を擁護した米経済学者のミルトン・フリードマンは、個人企業と会社を混同する理論的誤りを犯し、資本主義の中心をなす会社の本質を理解していなかったと喝破。「フリードマンの自由放任主義思想や株主主権論は資本主義が生き延びるための最大の敵である」と言い切った。

 会社は法律上ヒトとして扱われる「法人」であるが故に、2階建て構造をしていると指摘。個人企業と違い、ヒトとして会社の資産を所有する1階部分と、モノとして株主に所有される2階部分を兼ね備えた存在だからこそ、会社は株主の利益を追求するだけでなく、従業員や顧客、サプライヤー、地域社会、自然環境といったステークホルダーに貢献する活動もできる存在、本質的に多様性に富む存在なのだと解説した。

 米国型資本主義が国際標準となった世界では、格差の拡大や分断、ブロック経済化が進む。「資本主義は最悪のシステムだ。これまで存在した全てのシステムを除けば。これが私の立場」と語り、「ポンコツの資本主義」を生き延びさせるには、会社の多様性の発揮が必要と説いた。

 日本の役割にも言及し、民主主義や法の支配、経済的自由が西欧に特殊な理念でなく、普遍的な理念だと示す歴史的使命があると述べた。

 翻って、岸田政権の「新しい資本主義」はなかなか像を結ばず、株価がさえない日本企業は自社株買いに走っている。その現状が歯がゆい。


ゲスト / Guest

  • 岩井克人 / IWAI Katsuhito

    日本 / Japan

    東京大学名誉教授 / professor emeritus

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