2023年04月17日 17:30 〜 19:10 10階ホール
試写会「ハマのドン」

会見メモ

カジノ誘致が争点となった2021年8月の横浜市長選挙で、当時の菅義偉首相らが推進するカジノ誘致を阻止するため、闘いに挑んだ藤木幸夫(当時91)、通称“ハマのドン”を取り上げたドキュメンタリーの試写会を開催した。

上映後、監督であり、テレビ朝日「報道ステーション」でプロデューサーを務めた経験のある、松原文枝が撮影の過程で感じてきたこと、この作品で訴えたいことなどについて話した。


会見リポート

「港湾人」の意気と意地

三木 崇 (神奈川新聞社国会キャップ兼論説委員)

 「怒れる老人」か。はたまた「影の権力者」か。タイトルから伝わるイメージは覆される。カジノ誘致に揺れたミナト横浜を守るため、「港湾人」の藤木幸夫氏が時の政権をも相手に戦い抜いた生きざまに迫ったドキュメンタリーだ。

 日本にカジノを含む統合型リゾート(IR)誘致を決めた政府が有力候補先として選んだのが横浜港・山下ふ頭だった。当時の市長は誘致を表明し、IR政策は「国策」として港湾事業者の移転交渉を半ば強引に推し進めてゆく。

 藤木氏は横浜港を発展させたいという一願でカジノ抜きの再開発の代案を示したが、提案は一顧だにされず葬られた。かねて親交が深い有力政治家や市長に対して、徹底抗戦の姿勢を見せたのはこれがきっかけだ。カジノ誘致に反対する市民らとの交流が本格的に始まり、のちの市長選での頂上決戦につながる。

 横浜市の調査によると、市内で働く人たちの3割が港湾関連の仕事に従事している。その人たちを藤木氏は「港湾人」と呼ぶ。私たちの暮らしを支えるミナトをそのまま後世に引き継ぎたい―。藤木氏のこの思いは多くの市民の願いでもあった。神奈川新聞社が実施した調査では、市民の6割超がカジノ誘致に反対しており、「横浜のイメージにそぐわない」という理由が最多だった。

 市長選では、菅義偉首相(当時)の支援を受けて出馬した元閣僚でさえ「カジノは取りやめ」を表明した。それは藤木氏が自ら出馬すると言い切ったことに理由があることが映画から読み取れる。卒寿を迎えた藤木氏がカジノ阻止に命懸けで立ち上がった。これが首相官邸に伝わった時点で勝敗が決まったのだ。

 太平洋戦争の体験を乗り越え、ユーモアあふれる藤木氏の素顔も映し出す。6月には「港湾人」としての現役を退く予定で、ラストを飾るにふさわしい作品といえよう。

 


ゲスト / Guest

  • ハマのドン

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