2023年02月24日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「3.11から12年」(6) 強制避難者の試練  福島原発事故がもたらした地域社会の分断と消滅 トム・ギル(Tom Gill)明治学院大学教授

会見メモ

英国出身の社会人類学者で明治学院大学教授のトム・ギルさんが登壇。原発事故直後から断続的に通い、調査してきた福島県飯舘村長泥地区(帰還困難区域)を中心に、この12年は長泥地区の住民に何をもたらしたのか、いま何を考えるべきなのかについて話した。

ギルさんは、編著書として昨年『福島原発事故被災者 苦難と希望の人類学』(明石書店)を刊行。この中で、長泥地区の住民の苦難と葛藤を詳細に記している。

 

司会 早川由紀美 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)


会見リポート

賠償が生む被災地の分断

斉藤 徹弥 (日本経済新聞社上級論説委員兼編集委員)

 来日40年。東日本大震災の発生時は休暇で英国に戻っていたが「日本の社会問題に関心のある学者を名乗るなら無視できない」と2011年4月に福島県飯舘村の長泥地区に入った。12年の研究をもとに震災がもたらした「分断」をテーマに話した。

 被災地の分断には①津波と原発事故②強制避難者と自主避難者――など様々な形態があり、主に賠償金の多寡が原因だ。賠償金は飯舘村で帰還困難区域の長泥地区が1世帯1億円、他の地区は5000万円、隣接する伊達市月舘地区は100万円以下。嫉妬や摩擦を生み「地図に線を引くことで人の運命が変わる」と指摘した。

 どこかで「線を引くこと」は行政の義務だ。人類学者も線を引いて分析する。しかし、避難地域については「放射性物質はバットのように広がったのに、官僚は現実離れした丸い形で設定した。到底許せない」と厳しく批判した。

 福島市などに移った長泥の人たちは震災前は想像できない裕福な暮らしで「避難指示が解除されてもほとんど戻らない」とみる。一方で「故郷を捨てた」と見なされる苦しい胸の内にも触れた。「賠償金の話はタブーだが、それなしに事実は伝えられない」という言葉に力がこもる。

 日本には「ふるさと主義」があるという。残すべきふるさとは場所か共同体かと問われれば、日本では場所だ。行政はふるさと帰還を掲げ、飯舘村の「新天地を求める会」は頓挫した。しかし、長泥の人々は今の暮らしをみな喜んでおり、行政のふるさと主義に疑問を呈した。

 「当事者と研究者の型を超えることは可能か」と問うたのはメディアへの問いでもあろう。被災地では多くの記者が会社の規則に反して規制区域に入り、電話取材と報告するのを見聞きした。これをニヤリとしながら「面白い日本のマスコミの責任の構造」と分析した慧眼には虚を衝かれた。人類学の材料を提供していたようだ。


ゲスト / Guest

  • トム・ギル / Tom GILL

    明治学院大学教授

研究テーマ:3.11から12年

研究会回数:6

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