会見リポート
2022年09月16日
13:00 〜 14:30
10階ホール
「ゴルバチョフ時代からプーチン時代へ」袴田茂樹・青山学院大学名誉教授
会見メモ
8月30日に死去したソビエト連邦最後の最高指導者、ミハイル・ゴルバチョフ元大統領の時代からいまのプーチン時代までを、ロシア現代政治研究の第一人者、袴田茂樹・青山学院大学名誉教授が解説した。
司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員
ゴルバチョフ氏がソ連大統領として、1991年4月19日に日本記者クラブで会見した時の記録はこちら
会見リポート
侵攻の背景にロシアの「生地」
大野 正美 (朝日新聞出身)
「もし警戒するとすれば、今後プーチン政権がその基本課題の枠を超えて、反人権的で対外的にも危険な軍事国家や警察国家になる時である。もちろんこの可能性は排除できず、もしその兆候が現れたならば、そのとき初めて国際社会は、あらゆるアプローチを通じてそれを阻止すべきなのである」
ロシアのプーチン大統領が最初に大統領に就任する2000年5月のひと月前に、袴田氏が書き残していた文章だ。今年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始後、世界はまさにこの文章が示していた状況の中にあるようだ。
この状況を解明するキーワードとして会見で袴田氏が使ったのが、プーチン氏自身の「共産主義を飛び越えて、ピョートル1世、アレクサンドル3世など」を賛美し、ロシアの歴史や伝統的な統治スタイルを重視する「先祖返り」である。
特にアレクサンドル3世に対してプーチン氏は17年11月、ロシアが「併合」した後のクリミア半島につくられた巨大な皇帝像の除幕式に自ら足を運んだ。そして「世界全体で、ロシアには2つしか信頼できる同盟者はいない。それは我が国の陸軍と海軍だ」との皇帝の言葉を刻んだ台座の前で、「彼(アレクサンドル3世)はロシアの運命に個人的に責任を感じ、この大国の発展のために、また国内外の脅威から祖国を守るために、すべてのことを行った」と評価した。さらに「現在および未来の世代は、彼の後継者として祖国の発展のために全力を尽くすと私は信じている」とも強調した。
袴田氏によれば、今回の軍事侵攻はロシアにほんらい伝統的な世界観や安全保障観の「歴史の生地」の表れで、全体として安定していた米ソ冷戦時代の方がむしろ例外的な時期であるという。ウクライナ情勢を考えていくうえで必要な一つの視点であろう。
ゲスト / Guest
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袴田茂樹
青山学院大学名誉教授
研究テーマ:ゴルバチョフ時代からプーチン時代へ