2022年07月22日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「ウクライナ」(18) 今井宏平・アジア経済研究所中東研究グループ 研究員

会見メモ

ロシアとウクライナを巡り、トルコの仲介外交が存在感を増している。

なぜトルコは積極的に関与するのか、その背景について、日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員の今井宏平さんが解説した。

今井さんは現代トルコ政治・外交が専門。国際関係論を軸にトルコ外交を検証している。

『トルコ現代史 - オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで』(中公新書、2017年)などの著書がある。

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

トルコの選択肢 仲介のみ

出川 展恒 (NHK解説主幹)

 ロシアのウクライナ侵攻では、トルコの存在感が高まっている。エルドアン大統領が、停戦やウクライナからの穀物輸出の再開に向けて、積極的に仲介を続けている。一方、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟申請に対しては、強く反対した後、一転して、これを容認した。こうしたトルコ外交の背景や動機について、若手トルコ研究者の今井氏が丁寧に読み解いた。

 トルコにとっては、ウクライナも、ロシアも、黒海を隔てた重要な隣国であり、戦争が長期化し、地域が不安定化する事態は、何としても避けたい。トルコにとってロシアは、天然ガスと小麦の最大の輸入元である。NATO加盟国でありながら、ロシアから最新鋭の地対空ミサイルシステムのS‐400を導入した。一方で、トルコは、ここ数年、ウクライナからの小麦の輸入量を大幅に増やしたほか、国産の攻撃用無人機をウクライナに売却してきた。さらに、トルコには、ロシアからも、ウクライナからも、大勢の観光客が訪れてきた。戦争が長引けば、激しいインフレなどで悪化するトルコ経済には壊滅的な打撃となる。

 「黒海の大国」を自負するトルコにとって、両国の仲介は、唯一の選択肢なのだ。北欧2カ国のNATO加盟問題では、少数民族クルド人の武装組織PKK(クルド労働者党)への攻撃の正当性を確保すること、および、アメリカのバイデン政権から、F16戦闘機を購入するなどの見返りを得ることが、判断の決め手となった。トルコの脅威認識が、NATO加盟国に十分に理解されていないことへのいら立ちも背景にあると、今井氏は指摘する。

 来年6月に大統領選挙を控えるエルドアン大統領にとって、再選戦略の一環としての積極外交であり、成果を国内にアピールしている。トルコの内政と外交を丹念に観察する大切さを痛感させられた。


ゲスト / Guest

  • 今井宏平 / Kohei IMAI

    日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター中東研究グループ 研究員 / Research Fellow, Middle Eastern Studies Group, Area Studies Center, Institute of Developing Economies

研究テーマ:ウクライナ

研究会回数:18

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