2022年07月04日 16:30 〜 18:00 10階ホール
「ウクライナ」(17)  松里公孝・東京大学法学部教授

会見メモ

ウクライナ史、ロシア史を専門とする松里公孝教授が、ロシア・ウクライナ戦争の端緒を「ウクライナからのドンバスの分離紛争」ととらえる視点から、旧ソ連の解体過程を踏まえて解説した。

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

露のウクライナ侵攻 背景に分離紛争

北村 雄介 (NHK報道局国際部)

 ロシア史、ウクライナ史が専門の東大の松里教授は「この戦争を理解するためには1991年のソビエト連邦解体にさかのぼらなくてはならない」と強調した。2008年以降の旧ソ連圏の戦争は、いずれも旧連邦構成共和国(グルジア、アゼルバイジャン、ウクライナ)と旧自治単位(南オセチア、アブハジア、カラバフ、クリミア)の間で起きており、拙速なソビエト解体は15の連邦構成共和国の政治家やインテリだけに利益をもたらし、自治単位に不満を残したという。また、分離志向が強いバルト3国やグルジア、アゼルバイジャンは「ソ連に組み込まれたこと自体が違法。ソ連に占領される前の原状回復を目指す」という考えが根強く、ロシアとの認識の隔たりは大きいとみる。

 松里教授は、次にこの戦争を分類し、解決策を考察した。分離紛争の解決策には、分離国家を再び飲み込む「連邦化」、パトロン国家による「保護国化」など5つの方法があるという。今回の侵攻は「パトロン国家(ロシア)による親国家(ウクライナ)の破壊」に分類されると分析した。松里教授は、「プーチンは開戦直前まで『保護国化』を考えていたとみられるが、苦戦を経て「親国家の破壊」という究極的解決に踏み込んだ」と指摘した。この解決策の短所として、「国家間の衝突により膨大な人命が失われることと、パトロン国家と分離政体(ドネツク・ルガンスク人民共和国)が勝っても国際的には承認されず、紛争が永続化すること」を挙げた。

 最後に、松里教授はこの戦争の発端となった2014年のドンバス分離紛争の背景を解説した。炭鉱労働者が多いドンバスは、1990年代には共産党の牙城だったが、ドネツク州知事から大統領に躍進したヤヌコヴィチ氏が「地域党」を結成した結果、リージョナリズムが煽られ、急進派が伸張したと説明した。その後、ユーロマイダン革命とヤヌコヴィチ氏のロシアへの亡命によって、急進派は旧支配層を追放し、分離政体を打ち立てたという。いま戦闘の中心にいるのは、ロシア軍ではなく人民共和国軍であり、その自立性・主体性を理解することは非常に重要だと指摘した。


ゲスト / Guest

  • 松里公孝 / Kimitaka MATSUZATO

    東京大学法学部教授

研究テーマ:ウクライナ

研究会回数:17

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