2022年07月29日 13:00 〜 14:00 10階ホール
浅川雅嗣・アジア開発銀行(ADB)総裁 会見

会見メモ

アジア開発銀行(ADB)の浅川雅嗣総裁がアジア経済の見通し、ADBとしての気候変動対策などについて話した。

 

司会 藤井彰夫 日本記者クラブ企画委員長(日本経済新聞)


会見リポート

中国の減速 コロナなくても

高橋 徹 (日本経済新聞社編集委員兼論説委員)

 2030年代には国内総生産(GDP)で米国を抜き、世界最大の経済大国になると目される中国。「池の中の鯨」の様相を強める異形の超大国の振る舞い次第で、アジアの近未来は大きく左右される。浅川氏の話を聞き、改めて実感させられた。

 ADBは7月下旬、アジア新興国(46カ国・地域)の2022年の成長率見通しを4月時点の5.2%から4.6%に引き下げた。理由として真っ先に挙げたのが中国経済の減速だ。こちらは「井の中の蛙」よろしく、世界に逆行する「ゼロコロナ」政策に固執して厳格な都市封鎖を繰り返す中国の生産・消費の減退は、サプライチェーンを介してアジア全体に打撃を与える。

 だが浅川氏は「中国はコロナがなくても減速していた」と言い切る。背景にあるのは少子高齢化や環境対応、社会福祉負担などの構造的要因だ。「ゼロコロナ後も年7~8%台の成長に戻るのは難しい」とみる。

 自身の成長鈍化のほかに、インフラ支援への過剰な貸し付けも域内新興国の重荷になる。とりわけ経済危機のスリランカは債務再編に中国の協力を引き出せるかが焦点となっている。中国は債権整理で共同歩調をとった経験がない。「透明性を伴って情報開示し、どうかかわるか。うまくいけば初めて中国を(債務減免の枠組みに)引き込むことができる」と述べ、責任ある大国と認められるための試金石との見解を示した。

 後ろ向きな話ばかりではない。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、その名の通りインフラ支援に特化した機関だ。しかしコロナ禍ではADBや世界銀行との協調融資で、財政支援にも柔軟に応じてきた。ウクライナ危機に伴う食糧危機でも同様の動きがあるという。

 毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい巨大な隣人の功罪を、私たち日本のメディアも先入観にとらわれず、公正に報じていく責務があるだろう。


ゲスト / Guest

  • 浅川雅嗣 / ASAKAWA Masatsugu

    アジア開発銀行(ADB)総裁 / President, Asian Development Bank (ADB)

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